女神の誘惑

 その時の俺は疲れていた。体力的にも、精神的にも。
 実際に疲れていたのは確かだが……だからって、あんな誘いに乗じるなんて……どうかしていた。
「オッパイ、揉んで」
 疲れた心身を癒すつもりだったのか……あの時俺がどうして、人気の無くなった夜の公園にいたのか、よく覚えていない。まして公園内の茂みに入り込んでいたなんて……。いや、重要なのはそこに俺がいたことじゃない。そこに彼女がいたことだ。
 その彼女……上半身裸の女性が、自ら豊満な胸を両手で持ち上げながら、こう言った。尋常じゃない。今にして思えば確かにその通りなのだが……尋常でなかったのは、俺の思考回路も同様だった。誘われるままに、気付けばフラフラとその女性に近づいていた。
 痴女。一言で彼女を言い表すなら、この言葉以外他にないだろう。あるいはそう……罠、か?
「嬉しい……揉んでくれるのね?」
 罠だって構わない。痴女が相手だって構わない。全ての理性を崩壊させるだけの魅力が、その美しい乳房には確かにあった。
 見た目だけではない。触れた瞬間に指先から脳天を痺れさせる感触。指を飲み込みながらも優しく弾む弾力。そして触れた掌を放さない、吸い付くような肌質。手に馴染むとはまさにこのことか……初めて味わう、懐かしい母の温もりがそこにあった。男の妄想と願望、女の本質と魅力がここには詰まっている。
「んっ、上手……素敵だわ」
 間近で聞く彼女の声は、甘く、俺の脳髄をトロトロに溶かしていく。俺はもう、ココがどこだか、彼女が何者なのか、そんな事を思考する感情も判断力も、溶かされていた。
「あん、そこもっと……」
 胸を愛撫することに手慣れている訳ではない。だが彼女は甘い歓喜の声を囁き、俺に更なる愛撫を求めてくる。その期待に応えるため、なによりこの女神の乳房を味わうために、指先に力を込め、掌で撫で回し、美しく歪む双丘を堪能する。
「乳首、立ってきたね」
「だって……あっ、ん、上手、なんですもの」
 思えば、彼女に話しかけた第一声がこれだった……いやもう、そんな事はどうでも良い。大切なのは、彼女が本当に感じてくれているという事実と、彼女の声がまた聞けたということ。
 もっと感じて欲しい。もっと聞きたい。その思いが、俺の指を機敏にし、饒舌にさせていた。
「いやらしい娘だね君は……こんなに感じて」
「だってぇ、ん、胸ぇ、揉んで貰うの……大好きなのぉ」
 起立する乳首を指先でいじる。その度に甘い喘ぎと吐息が俺の顔に吹きかかる。突起はいじる度にコリコリとした硬さを増していくが、しかし外壁には僅かな柔らかさが。まるでそこに快楽のツボが集約しているかのように、軽く突く度に、触れる度に、いじる度に、甘い甘い香りと囁きが彼女の口からあふれ出る。
「あふ、すごい……んっ、こんなに、感じるぅ」
 上気し赤く染まる頬。惚けたように半開きになっている口。そこからはたらりと、唾液もあふれ出ている。
 美しい。そして愛らしい。快楽に酔いしれる女性の顔が、こんなにも素敵なものだとは……おそらくこの時に、俺の心は完全に奪われていたのだろう。だから……そう、この後気付いた「些細なこと」など、本当にどうでも良かった。
 愛してしまったのだから。
「ねえ……ほら、ここもこんなに……」
 クチュリと、下の方から湿った音。釣られて顔を下に向ければ、そこには彼女が自ら指で押し広げた淫唇と、その奥にある陰部がハッキリと見えていた。
 それだけではない……見えたのは、それだけではない。もっと重要なことが、眼前に見えていた。
 彼女は全裸だった。下も、何も履いていない。だからこそ見えるはずの……足が、彼女にはなかった。厳密に言えば、足の代わりとなる物がそこにあった。
 尻尾だ。鱗に覆われた尻尾……まるで蛇のような尻尾が、彼女を支えている。そしてその尻尾と腹部の境目、人と蛇との境目に、彼女の恥丘があった。
 彼女は人間ではなかった。その事に俺は驚き……そして同時に、納得していた。
 そうだろう。この胸は、吐息は、人の物とは思えない。まさに女神の賜ではないか。ならば足が尻尾になっていても、そんな「些細なこと」を気にする必要が何処にある?
 何より俺は、もう彼女の虜だった。こんな事で女神への信仰を覆すような愚行をしでかすはずもない。
 そう、今大切なのは……内からあふれ出る愛液で神々しく輝く淫唇と陰部。美しい桃色の内部がヒクヒクと蠢き、俺を誘っていた。
「凄いな……本当に君はいやらしい」
「そんなに言わないで……ねえ、もう判るでしょ?」
 恥ずかしがる彼女の声が、ゾクゾクと俺を震わせる。もっと聞きたい……そんな想いがあったからか、俺は求める彼女を焦らしに掛かる。
「なにが?」
「んっ、だから……欲しいの。ね、お願いぃ」
 強請るその声に、俺の肉棒が激しく反応している。ズボンのジッパーを内側から壊さんという勢いで膨張しているのを感じながらも、俺はまだ焦らし続ける。
「欲しいって何が? ちゃんと言ってくれないと判らないな」
「もう、意地しないでぇ……ねえ、欲しいの。はやくぅ」
「何が欲しいのかな……愛なら、もうたっぷりあげているつもりだけど?」
 事実、俺は彼女への愛だけで動かされている。愛しい彼女へ、俺の全てを、身も心も捧げている。なのに口は、意地悪く彼女を焦らし続けてた。
「愛もぉ、愛も欲しいけど……それだけじゃいやなのぉ、ねぇ、ちょうだい、欲しいのぉ!」
 半狂乱になりながら、彼女はねだり続ける。俺としては、その甘い声から隠語が囁かれるのを聞きたかったが……なにより、俺ももう我慢できない。ゆっくりと彼女を横たわらせ、急ぎ自分のズボンを下ろす。待ってましたと、熱く硬く膨張した俺の肉棒が、その存在を強く自己主張した。
「それぇ、それが欲しいのぉ……」
「それって何かな?」
「もお、お願いだからはやくぅ! こんなにヨダレ垂らして……ぐしょぐしょになってるのぉ」
「本当にヨダレまみれだね。でもどっちの口もヨダレまみれだけど……どっちに欲しいのかな?」
「下、下の口ぃ! ほらぁ、あなたのが食べたいって、こんなになってるのぉ!」
 待ちきれない。互いの気持ちは一致している。なのに俺は、ゆっくりと腰を彼女に近づけていく。
「あぁん!」
 ピトリと、肉棒の先が彼女の淫唇に触れる。それだけで、彼女は歓喜の声を張り上げた。
「本当にいやらしいな……良い顔してるよ」
「ふぁあ……ねえ、入れてよぉ」
 言われるまでもなく、俺はゆっくりと腰を進めていく。既に陰部は滾々と湧き出る泉のような愛液で濡れている。吸い込まれるように、肉棒は奥へと突き進む。
「きたぁあ! ん、これぇ、これが欲しかったのぉ!」
 一度入れてしまえば、もう互いの腰は止まらない。パンパンと乾いた音とグチュグチュと湿った音が、周囲の茂みを揺らしていく。
「あん、あん! これ、これぇ、ん、あぁん! い、いい、いいのぉ! もっと、もっとぉ、おくぅ、奥までぇ!」
「くっ、絡みついてくる……すごいよ、君の中……」
 膣に抵抗はなく、なのに圧迫感はある。自分でも口にしたが、まさに膣全体が肉棒に絡みつくような……女神の抱擁が、そこにあった。
「すごい、すごいのぉ! ん、あぁん! いい、きもち、いい……ん、もっと、もっとほしい! おくにぃ、ちょうだぁい!」
 膣の中、その最深部……子宮の入り口に、鈴口が何度もキスをする。その度に、彼女の口からは激しくも甘い喘ぎ声が紡ぎ出されていく。
「いい、いいのぉ、ん、すてきぃ、いい、きもち、いい、のぉ!」
「君も……好きだよ。良い顔してる……」
 高揚する彼女の顔は、まさに神々しい女神のそれ。俺は腰を打ち付ける度に惚れ直し、愛を奥へと送り込む。
「好きだよ……素敵だ。愛してるよ……」
「ん、わたし、もぉ、すきぃ、これ、も、あなたもぉ、いい、きもち、いい、すてきぃ、ん、あぁん!」
 チラチラと視界にはいる、彼女の尻尾。犬のように喜びを表現しているのか、茂みをかき分け激しく動くその尻尾の、なんと愛らしいことか。
「ねえ、もっと声聞かせて……君の声、もっと聞きたい」
 今度は俺から女神に強請る。鈴の音のように心に響き、麝香(じゃこう)のように心を溶かす、その声をもっと聞きたい……。
「あっ、あん! こ、こえ、でちゃう、でちゃう、もん……んあ! いわれなく、てもぉ、ん! とまらないぃ、とまらないのぉ、ん、きもち、よくてぇ、んん! でちゃうぅ、でちゃうのぉ!」
「いいよ……素敵だよ、君の声……ああ、素敵だ……」
 止まらないのは、俺もだ。腰がもう、俺の意志とは無関係に激しさを増していく。
「いく、もう、いっちゃうのぉ……ん、いく、いっちゃうぅ!」
「いって、俺も……どっち、どっちに欲しい?」
「そとぉ、かけてぇ、あなたのあい、あいをぉ、たくさん、かけてぇ、かけてぇ!」
 彼女の言葉とは裏腹に、膣は肉棒を放すまいと締め付けを増していく。だがそれに増して女神の愛液は溢れる量を増していく。
「いく、いく、いく……いっくぅ!!」
 絶叫と共に、膣は強く強く肉棒を締め付ける。その心地好い抱擁に溺れそうになりながらも、その誘惑から俺は逃れ、更なる誘惑……彼女へ俺の愛を振りまく達成感へと向かった。
「はあ……ああ、愛が……いっぱぁい。ふふ、すごい量……うれしぃ」
 白濁液が彼女をいやらしく美しく飾る。いまだ息を荒げながら、しかし満足げに微笑む彼女の口からお褒めの言葉を頂戴した。
「素敵だ……今までで一番、美しいよ」
 神々しいとは、今の彼女のためにある言葉だろう。あまりにも美しい……微笑む表情も、汗と白濁液で濡れ光る肌も、ゆっくりと揺れる大きな乳房も、まだヒクヒクと蠢く淫唇も、そして……ゆっくりと揺れる、彼女の尻尾も。
 人知を越えた美しさ。人ではとうてい追いつかない、追いつけない美しさ。ああ、俺はこの女神に導かれてココにいるのだと、この時俺は確信していた。
「ふふ……あなたも素敵だったわ」
「でも、まだ満足してないって顔だね?」
 そう。女神の瞳は妖しげな光を宿し、口元はいやらしく歪んでいる。
「だって……あなたの愛もそれも、素敵なんですもの」
 子供が指をくわえて物を強請るように、女神は淫唇に指をくわえさせ、俺を強請っている。
「いやらしい娘だな本当に。仕方ないな……」
 むしろ、望むところだ。また、また女神の抱擁を受けられるのだ。こんな喜び、他にはない。
「ねえ、また胸……揉んで」
「ああ、もちろん」
 ココがどこだか、何故ココにいるのか。そして……夜がいずれ明けることも……もう、なにも考えない。ただ、ただ俺は、女神に溺れていく……この豊満な胸から、甘い吐息から、絡みつく膣から、どうして逃れる必要がある?
「ん、やっぱり上手……んぁあ! 気持ちいい」
「やはり素敵だよ……可愛いよ、君は」
 二人は重なり合い、心を溶かしあい、一つになっていく。これは、女神の定めた運命だから……。

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