玄関の扉を開けると、我妻が悶えていた。
「あっ……あなた。はぁ、はぁ……おかえ、り……」
妻は玄関に横たわり、上目遣いに私を見上げている。見上げたその瞳は潤んでおり、服は乱れ、息もかなり荒い。
「ちょっ……おい、何があった!」
俺は靴も脱がずに家へ上がり込み、妻を抱き上げた。まくし上げられた上着はぐっしょりと濡れ、背広越しでも判るほど妻は大量の汗を掻いている。これではまるで……いやそんな……俺は想像もしたくない可能性を脳裏に浮かべ、それをすぐさま否定した。だかやはり……赤く色づく頬、汗でテラテラと光る柔肌……まるで、毎夜見ている妻の「事後」のようで……馬鹿な、そんなことあるはずが……。
「あなた……熱い、熱いの……」
熱い? 確かに抱き上げた妻はかなり体温が上昇している。これだけの汗を掻いているもその証拠か。しかし……室内はそれほど暑くはない。寒がりな妻に合わせ、暖房はかなり効かせている方だが……うっすらと汗を滲ませるならともかく、これほど大量の汗を掻くような暑さは感じられない。となると、考えられるのは……
「おまえ……熱出したのか?」
インフルエンザにでもやられたのか……いや、そうだとしてもこの汗は尋常ではない。ただ……最初に想像してしまった事柄では無いと確信できた。妻を心配するよりもその事に胸をなで下ろした自分に、少し嫌悪する。
「はぁ、はぁ……ごめんなさい、もう……はぁ、我慢……出来ない……」
妻はよろよろと上半身を起こし、俺の首に抱きついてくる。倒れる俺に覆い被さる妻は、そのまま……
「んっ……チュ、クチュ……チュ、んっ……」
突然、妻が唇を重ねてきた。妻の半身のように舌がするりと俺の口内へ入り込み、俺の舌に絡み付く。情景反射か、俺も自然と妻の唇を吸い、舌を味わうように絡めてしまう。その反応に気を良くしたのか、妻は俺の後頭部をぐっと押しながら、むさぼるように互いの唾液を絡ませそれを啜る。
妻は夫の俺が言うのもなんだが……淫乱である。それは彼女がラミアである事に由来している部分もあるのだが、しかしそれでも分別はわきまえている。玄関で悶え、夫を突然襲うような妻ではなかったはずなのだが……
「あなた……お願い、抱いて……熱いの、ねえ、お願い……」
言いながら、妻は一分一秒も待てない様子で背広に手を掛け強引に脱がそうとしている。あまりに突然で、俺は混乱し固まってしまっているが……妻はそんな俺の様子は気にもとめない。ただ一心不乱に俺を脱がそうとしている。
「いや、判ったから。だけどどうしたんだよ突然……熱いって、それにこの汗、どうしたんだよ……」
妻を抱くこと自体に戸惑いがあるはずはない。むしろ積極的な妻は大歓迎だ。しかしあまりにも様子がおかしい妻を見てしまっては、性欲よりまず彼女が心配で事を進める気になれない。
「そんなこといいから、ねえ、抱いてよ! お願い、熱いの、熱いから!」
どうしたんだよ本当に……熱病? それにしてはあまりにも……煮え切らない俺に妻は声を荒げ、ワイシャツを強引に引きちぎろうとしている。しかし女の細腕ではボタンを引きちぎるほどの力はない。俺はとにかく、妻が落ち着きを取り戻すためにも……この流れのまま、抱いてあげるしかないのか? 正直俺も正常な判断を下せるほど冷静になれていないが……ここは他に考えられる選択肢が思いつかない。
俺が観念してボタンに手を掛けると、妻は俺がやっとその気になったのを理解したのか、脱ぐのを任せすぐさま身体を後ろへとずらす。すると今度はカチャカチャと派手に音を鳴らしながらベルトを外そうとしているじゃないか。倒されたままだった俺が半身を起こしてワイシャツを脱ぎ終わった頃には、もうズボンはパンツと共にくるぶしまで下ろされた。そして露わになった俺の愚息を、妻が口いっぱいに頬張っていた。
「んっ、クチュ……これ、これが欲しかったの……クチャ、チュ、んっ……」
すぐさまいきり起つ愚息よりも熱い、妻の口内と熱意。その熱が愚息の血流を促し、何時にも増して太く熱く張り詰める。ねっとりと絡みつく舌の生暖かさに加え、荒く熱い息が根本をくすぐる。そしてグチュグチュと妻の唇はいやらしい音を奏でている。
「おつゆぅ、おつゆ美味しい……チュ、クチャ……ね、もっと濃いのぉ、白くて濃いのが、チュパ、飲みたいぃ」
トロンと目尻を下げ、俺を見上げながらおねだりする妻を……こんな状況ながら、可愛く見えてしまう。妻は淫乱だが、羞恥心は常に持っている方だった。故にこんな砕けた物言いでおねだりをするなんて事は……普段ならありえない。むろん「そういうプレイ」を楽しむこともあるが……妻が率先して何かを演じているようには見えない。羞恥心もかなぐり捨て、性欲をむさぼるような……まるで淫魔のそれ……ラミアの本性なのだろうか?
「ほらぁ、だしてぇ、がまんしないでぇ……クチュ、んっ、チュ、チュプ……」
亀頭を唇で刺激しながら、妻は根本を細く美しい指で強く握りしごき始める。我慢するも何も、そんなものはこれだけの攻めを受け続けたら無駄に決まっている。そもそも我慢する気も……
「んっ! んっ……コクッ、クチュ、んっ……おいしぃ、うふふふ、おいしいわぁ、あなたぁ」
ネチャネチャと口内で白濁液を弄びながら、妻が俺に報告する。鈴口に僅か残った甘露を指ですくいながら、妻はその指で我が息子を弄ぶ。
「やぁ、しぼんじゃだめぇ……ねえ、まだ熱いの……沈めてぇ、抱いてあなたぁ!」
了解を得ることなく、妻はするりと身を伸ばし首にしがみつく。その勢いで押し倒された俺は、再び半身を床に預けた。熱烈でちょっと苦い口づけを交わしながら、妻は俺の息子を片手で刺激し続ける。
「おっきくなったぁ。ねえ、入れるわよ、入れちゃうわね」
頬を真っ赤にし、そして先ほどよりも息を荒げ、妻は返答を待たずに腰を沈める。
「んっ、きたぁ! これぇ、あなたのぉぉぉぉ……あは、ちょっと逝っちゃった……」
妻は愛らしくいやらしく、すぐ目の前で微笑んでいる。ヒクヒクと膣の中が軽く俺を締め付け、その膣がゆっくりと腰ごと動き出す。
「ん、あなたのぉ、なんかいつもより、おっきいぃ、ふあ、うれしぃ……あっ、あなたぁ」
長い妻の尾が俺の両足をぐるりと締め付ける。俺がほとんど身動きの取れないこの状況で、妻は腰だけを激しく情熱的に動かし続ける。そんな中で確かに、俺の肉棒は妻が言うとおり普段より熱く太く、痛いくらいにいきり起っているのが自分でも判る。しかしそれは妻も同じで、普段より腰使いが激しく、膣の締め付けもキツイ。なにより、その膣がとてもとても熱く、それだけでまた逝ってしまいそうだ。先に一度出していなかったら、実際に出していたかもしれない。不満があるとすれば……俺が完全にマグロになっていることか。妻の豊かな胸を揉むことも吸うことも出来ないのは、やはり寂しい。
「すごいの、あなたのあつい、ね、あついのぉ、わたしも、あつくて、あつくてぇ! んっ、あ……ハァ、ハァ……んっ!」
俺の顔に熱い息を吹きかけながら、妻が喘ぐ。妻の腰はより激しく、膣はよりきつく。そして微力ながら俺の腰も自然と動いていた。
「あっ、いく、はや、んっ! あな、あなたぁ、いく、いっちゃい、そ……んっ! やっ、きた、きてるぅ、あなたのぉでてるぅ……あっついぃ、しきゅうにあたってぇ、あんっ! わたしもすぐ、すぐ、ふあ! いっいく、いっ、ちゃ、んんっ!」
膣の奥へと勢いよく俺が放出した後で、妻が俺の首をぎゅっと掴みながら身体を震わせた。まだ足りないとばかりに、膣の締め付けはまだ強く、管に残った白濁液が押し出されているようだ。
「ふう……なあ、大丈夫か?」
俺に抱きつきながら、妻は余韻に浸っている……ようだが、しかしやはり、息がまだ荒い。心配になった俺が妻に声を掛けると、妻はその声で意識を戻したのか……返答代わりか、再び腰を動かし始めた。
「まだぁ、まだあついのぉ……ねえ、もういちど、いいでしょお?」
良いも何も、妻の攻めはもう始まっている。熱い抱擁と熱い締め付けに、愚息は馬鹿正直に答えているのか、すぐさま硬さと太さ、そして熱さを取り戻した。
「うれしぃ、あなたぁ……すきぃ、あいしてるぅ」
こんな形で愛を確認するのもなんだが……まあ、俺は常に妻を愛しているからそれはいいんだが。しかしそれはそれとして、妻の尋常じゃない求めに、俺は不安を抱えたままだ。
「ほらぁ、グチュグチュってぇ、グチュグチュぅ、ハァ、ハァ……いやらしいぃ、おと、だしてるぅ……あっ、ん……ハァ、いっ、きもち、いいのぉ……ふあ、んっ、んあぁあ!」
不安を抱えているというのに、愚息は元気だな、おい……。
「ねえ、あなたぁ、ハァ、んっ、ぎゅって、ぎゅってぇ、だいてぇ、んっ、ハァ、ハァ……ん、ふあ、んっ……あなたぁ、うれしいぃ」
言われるがままに、俺は妻をギュッと抱きしめる。妻は熱い息を俺の首筋に何度も何度も吐きつけながら、俺の首に回した腕と俺の足を縛り付けている尾に力を込めより強く俺を抱きしめてくる。それでも妻の腰は激しさを損なわない。
「ああ、あなたぁ……んっ、グチュ……チュ、チュー、んっ、おいし……」
不意に、首筋から鋭い痛みが。妻が牙を突き立て俺の血を啜り始めたのだ。いつもなら一言断りを入れる妻なのだが……やはり今日の妻はどこかおかしい。
「あついのぉ、あなたのちも、なかのもぉ、んっ! ハァ、あなたぁ……ハァ、ハァ、あついぃ、いい、きもち、いいのぉ!」
腕と尾で俺を抱きしめながら妻は、膣のヒダをびっしりと肉棒に絡みつけ、こすりつけ、締め付ける。その快楽は耐え難く、またすぐにでも白濁液を噴き出しそうだ。三度目は間近だが……こんな短時間でか……それだけ妻の攻めが激しく、そして絶え間なく続けられているという証か。
「あな、たぁ、んっ! また、またぁ、ハァ、いく、いっくぅ……ハァ、ハァ、んっ、もっと、もっとぉ、ぎゅって、ぎゅってしてぇ、なか、なかもぉ、つい、て、ついて、えぇ! そ、ん、あな、た、あいして、あい、んっ! あいして、る、ん、あい、し、ん、ふあ、あ、あぁあああ!」
更に強く腕と尾、そして膣が俺を締め付ける。ビクッ、ビクッと妻は力を入れながらも全身を震わせる中で、三度目の射精が妻の中で行われた。そして妻は……
「大丈夫か?……おい、ちょ……おい、大丈夫か!」
妻は失神していた。失神しながらも、息はまだ荒く……これはもうただごとではない。俺は力の緩んだ妻から逃れ、その妻の肩を揺すり声をかけ続けた。
「あな……た……ハァ、ハァ……」
まずい。これは非常にまずいぞ……俺は脱ぎ捨てられた上着を引っ張り込み、慌てながらそこから携帯電話を取り出し助けを求めた。
「まあ……ね。状況としてはっていうか、「男」としてよく判るんだけど……」
何で三度も「やる」前に連絡をしなかったんだと、軽く叱られてしまった。ただ彼……妖精学者の先生も、「状況」がそれを困難にしていたのを理解してくれたのか、そうキツイ言い回しではなかった。
「安静にしていれば問題ないよ。ま、ちょっと違うけど一種の「熱病」みたいなものだから」
むろん肺炎などの危険な熱病ではなく……先生が言うには、「薬」の副作用のようで……簡単にいってしまえば、妻が飲んでいたのは強力な媚薬なのだとか。
「こんな無茶な調合する奴は「あいつら」しかいないな……ったく、イタズラもたいがいにしとけっての」
妻がどうしてそんな媚薬を口にしたのか……熱冷ましを飲ませ、今は穏やかな顔で寝息を立てている妻に尋ねることは出来ない。熱が下がってから聞いてみるか。
「ん〜……あなた……」
不意に、妻がうわごとを口にし始める。心配そうに俺と先生が耳をそばだてると、妻はまた口を開いた。
「……愛してる……」
「……やれやれ、熱冷ましも効かない、あっついものがおありのようで」
ニヤニヤと先生の顔が歪む中、今度は俺が、顔と心を真っ赤に熱くさせていた。