「これを売ってしまったの?」
泣きそうな顔で、弟子がゆっくりと首を縦に振る。
「身体を熱くするような薬はないかって言われたから……」
どうやら私達が留守にしている間、私達の元へ来てまだ日も浅いこの弟子が、誤った薬を客に渡してしまったらしい。良く聞けば、店を訪れたのはラミアで、「冷え性」に効く薬を求めていたらしい。しかし弟子が売ってしまったのは、確かに身体を熱くさせる薬ではあるが……強力な媚薬。そもそもこれはほんの微量で効果を発揮できる……例えば飲み物に混ぜるとか……そんな用途で用いるために強化した薬。それを冷え性の薬だと思ってそれなりの量を飲めば……幸い、致死量には至らないのは良かった。
「まあ売ってしまったのならもう仕方ないわ。ところでラミアの人って……」
細かい特徴を尋ねてみたら、案の定「常連」の人妻だったよう。常連だったが故に、新顔の弟子に対しても「店の人だから」と警戒することなく薬を受け取ったんでしょうね……大丈夫かしら、もし飲んでしまったとした……あら?
「お前らなぁ……イタズラにもほどがあるぞ」
あきれ顔で訪れてきたのは、我らが愛しのダーリンじゃない。手にしているのは、売ってしまったと言っていた薬……ってことは、もう飲んでしまった後で、とりあえず無事だったみたいね。
「ごめんなさいパパ……」
「あーら、娘泣かせるなんて、ひっどいパパねぇ」
「お前らなぁ……」
まあ冗談はこれくらいにして……ちゃんと事情を説明しないと。可愛い弟子をこれ以上困らせるのは忍びないし。学者先生はいくらでも困らせたいけど。
「あの夫婦には、改めて謝罪に行くわ。それと折角……もとい、あなたの娘が「この薬」を飲んで詫びたいですって。はい、どうぞ」
「はい……ではいただきます」
「ちょ、待て! そればどーいう……」
指を鳴らし、すぐさま入り口のシャッターを閉める。愛弟子はもう身体が沸騰しそうなほど熱くなり始めてるわ。さーてと、親子水入らずの一時に、私はお邪魔よねぇ
「おいこら、反省してんのかマジで……」
「反省はしてるわよ、もちろん。だ・か・ら、これからあの夫婦のケアをしに行ってくるわ。じゃ、ごゆっくりぃ」
「ぱぱぁ……身体が熱いのぉ……」
「ちょ、くそ……待て、落ち着けって……おい、行く前にこの……や、だからいきな、んっ!」
「ぱぱぁ!」
おー、熱い熱い。やっぱりからかうならダーリンよねぇ……さてと、あの夫妻もからかいがいあるけどちゃんとフォローしないとね。ケアもしっかりこなしてこそのイタズラ。そこに定評があるのよ、私達魔女はね。