腰痛は、二足歩行をする人間特有の……いわば種としての持病なのだとか。他の動物に腰痛というものが全く無いと言うことではないらしいが、腰に負担をかける頻度は圧倒的に人間の方が多い。しかしこれは、魔物の存在を考慮していない理論に過ぎない。
そう、魔物にとっても腰痛は人間同様悩みの種となり得るのだ。
「だいぶ張ってるね」
下を脱ぎ、上も下着のみという格好でうつ伏せになった妻の腰を軽く撫でる。それだけでも、妻の腰が硬くなっているのがよく判った。
妻の種……ラミアや、その他上半身が人間で下半身が他の生物になっている魔物は、人間同様腰痛に悩まされている。理由は人間とほぼ同じで、上半身を腰だけで支えている結果によるもの。種によっては背骨や腰回りの筋肉など身体の構造が腰を痛めないようしっかりしている種もいるが、妻達ラミアのように、むしろ腰を支えるようには出来ていない種もいる。
ラミアは蛇が常に鎌首を上げているように上半身を起こしているため、腰の負担は人間以上。そして妻の場合、外出時に下半身を人間と同じ二足に化け出歩くため、慣れない二足歩行が更に腰を痛めている。
むろんそれだけにラミアの身体は自然と腰痛を軽減するように発達している。ラミアの腰は細く見えるようで、しっかりと筋肉が付いているのが発達した要素の一つ。ウエストラインが非常に美しいのはその為だ。そして腰からすぐ下、人間で言えば尻部と股部にヒップラインのふくらみがあるのも、腰を支える為には重要なのだ。つまり、ラミア種の美しいボディラインは、彼女達の美しさを引き出すためだけでなく、生きていく上で重要な要素でもある。
しかしそれでも、腰痛は起きる。日々人間社会の中で暮らす妻にとって、この腰痛は解消しきれない問題なのだ。
そんな妻の悩みを少しでも和らげたい。そう考えた俺は、ある専門店で腰痛に効くという塗り薬を購入してきた。
それはラミア専用の腰痛薬。人間が使うのと同じ湿布などでも効果はあるのだが、腰の筋肉が発達しているラミアには効果が薄い。そこでラミア用に調合したより強力なものを用いた方が良い……らしい。自分にはこの手の薬剤に関する知識がないため、店員の説明を鵜呑みにしているだけなのだが。
この塗り薬、購入時には調合済みの固形状態で購入し、これを桶に入れた湯で溶かしたもの。さわり心地は……正直、ローションのようだ。そしてなにやら甘い香りがする。なにやらイメージしていたものとは違うが、専門店の店員が勧めてくれた腰痛薬なのだから間違いないのだろう。
「ちょっと生温くて気持ち悪いかもしれないけど、我慢してくれよ」
俺は薬が服などに付かないよう下着姿になって、妻の上にまたがる。そしてローション状の塗り薬をたっぷりと手ですくい、妻の腰に塗る。そしてそのまま掌に体重をかけるよう強く揉んでいく。
「んっ、んっ、んっ……」
力を入れ腰を押す度に、妻が軽くうめく。ごく普通の、なんでもない声なのだが……お互いが全裸に近い格好をしているためか、僅かに、本当に僅かに、色っぽく聞こえてしまう。
軽く解れてきたところで、俺は再び薬をすくい腰にかけ、今度は五本の指で揉みほぐしていく。
「んん……気持ちいいわ、あなた」
薬の効能なのか、マッサージの効果なのか、妻が気持ちよさげに声を出す。俺は滑らかな人部分の腰は揉むように、蛇部分のでん部は鱗に逆らわないよう優しく撫でるように、マッサージを続けていく。
それにしても……この甘い香りはなんだろう。どんな成分が含まれているのか判らないが、何か心地良い気分になっていくようで……。
「ねえあなた。良かったら肩の方もお願い出来ませんか?」
気付けば手に力が入っておらず、腰や尻をただ撫で回しているだけの状況に。それをマッサージの終了と思ったのか、妻が肩にもとリクエストしてきた。
「あ、ああ……」
俺は生返事気味に答え、妻にまたがったまま少し前へ出る。そして桶に入った塗り薬を手ですくい、肩にそれを塗りたくる。
「んっ……」
眼下には、目を細め気持ちよさそうにする妻の横顔。すこし視線を下げれば、マットにつぶされ横へとはみ出る豊満な胸。
「ちょっ、あなた……そこ違う……」
気付けば、俺は無意識に手を肩から滑らせ胸へと伸ばしていた。薬まみれで滑った両手をマットとの間に滑り込ませ、下着の上から妻の胸を揉んでいた。
「そこはこってないから……あなた、ちょっと……んっ、止めて……」
拒絶の姿勢は見せるが、妻も嫌がっているようには見えない。いやむしろ、頬は火照り甘い声を出し始めているではないか。
「どうしたの、あなた……もう、ふざけないで、ねぇ……んっ……」
背中から俺に覆い被され、妻は思うように動けない。俺は下着を上へとめくり上げ、直に柔らかな胸をぎゅっとマッサージする。
「あ……ん、もう……あなたの、が……背中に当たってる……」
俺の下着を打ち破ろうと、力強く俺の肉棒がいきり立っていた。それが妻の背中に押しつけられていた。
「ね、お願い。するなら……ちゃんとしたいの」
お互いに気持ちは高揚しきっている。ここまで来てしまえば、到達地点は見えている。ならば、されるがままよりもきちんと向かい合いたい。それが妻の気持ちだろうか。俺は妻の願いを聞き入れ、一度妻から腰を上げ立ち上がる。そして唯一身につけていた下着をすぐさま脱ぎ捨てた。
「ね、マッサージのお返しに……あなたの堅く凝ってるそれ、ここでほぐしてしてあげるから」
下着をめくり上げたまま仰向けに反転した妻が、自信の胸を脇から両手で強く挟む。俺は再び妻の上にまたがり、凝りに凝った肉棒を妻ご自慢の豊乳の間へと滑り込ませる。
「ふふっ……お客さん、だいぶ凝ってますね……んっ、ん……」
いつもよりも力強く、俺は腰を振っていた。普段から妻の胸は心地良いが、塗り薬でより滑らかになった妻の胸は俺を暴走させるに充分な弾力と圧力を俺に与えてくる。
「あん、なんだか、私まで……ん、マッサージ、されてる、みたい……んっ、ん、んっ……」
激しく擦れる肉棒が妻の胸を内側から刺激し、腰がたぷたぷと胸を揺らしていた。軽く喘ぐ妻のいやらしい声に刺激されてか、肉棒の凝りはますます酷くなっていく。
「んっ、んっ、んっ……ん、えっ? んっ!」
あまりの心地よさに、俺自身も予期せぬ早さで射精していた。
「もう、いつもより……」
早い、という言葉は飲み込んだ。そんな気遣いが我が愛妻らしいところ。妻は早かったことに対して文句を言うよりは、むしろ誇っているかのようで、嬉しそうに微笑んでいた。彼女にしてみれば、それだけ夢中になって腰を振る俺が可愛く思えたのかも知れない。
そんな優しい妻はしかし、自分の顔に降りかかった白く濁る塗り薬を口の周りに塗りたくり、ぺろりと唇と指を嘗めている。その顔は愛らしさの上に艶やかさを上書きしたような、悩ましい表情。
「凝りは……収まってませんね、あなた」
むろんだ。妻の悩ましいその顔と仕草を見て、すぐに肉棒はガチガチに固まった。
「よろしかったら……私のあそこ……あそこの奥が、凝ってますから……その、堅いマッサージ棒で、ほぐしてください」
俺は飛び上がるように腰を浮かせ、すぐ後ろに下がる。妻の言うあそこ……彼女の恥丘は彼女自身から湧き出した塗り薬が既にたっぷりと塗られていた。
「んっ! 慌てないであなた……んっ、もう、今日は、どうしたのです、か? ん、いつも、より、んふ、ん、激しい……あっ、んっ! ん……」
妻の言うとおり、俺はいつもよりも激しく妻を攻め立てている。先ほどにも引けを取らぬほどに激しく腰を振り、パンパンと打ち付ける音を響かせていた。
「い、んっ、あな、た……ん、すご、いっ……んっ、あっ、んん……んふ、んっ!」
止まらない腰。激しい攻めに、それでも妻はついてきた。むしろこの激しさを妻も望んでいるかのよう。彼女の高揚も俺同様、いつもとは違う気がする。
「ね、おねが、い……あな、た、ね、ちょ、ちょうだ、い……ほしい、の……」
妻が腕を俺に伸ばし求めている。求められているのは、俺の血。普段なら妻を気遣い俺の方から妻を抱き寄せ首を差し出すのだが……今日の俺はどうしてか、そこまで気が回らずただただ腰を振り続けていた。
伸ばされた手に答えるよう、俺は腰を動かしながらも少し前屈みになる。妻も少し身体を起こし、俺の首に腕を回す。そして俺も妻の背に手を回し、互いにぐっと抱き寄せる。その勢いのまま、互いの唇が重なり、クチュクチュと音を立て二つの舌が絡み合う。先の割れた細い妻の舌が、俺の太い舌に口内で巻き付く。押しつけ合う唇は吸い込む息でチュパチュパ音が鳴る。この間、互いの腰は動いたままだ。
やがて唇は離れ、妻の顔は首筋へと近づく。普段よりも力強く刺さる牙。ドクドクと流れる血。それをジュルジュルと音を立て飲んでいく妻。血を吸われる、気が遠くなるような快感にありながら、妻が血を啜る音ですらいやらしく耳に響く。それが興奮剤となったのか、意識が朦朧となりながらも腰の激しさは増した。
「んっ、ジュル……ん、い、はげし、ん……ズル……ん、おいし、きも、ち、い、いい……い、あな、た、あなた、い、いい、いいの……んっ、クチュ、ジュル……」
妻を抱き寄せる腕にも力が入る。入りながらも、意識はハッキリしない。白昼夢の中で快楽と妻だけが俺を包む。
「いく、あなた、いく、いく、の……ね、いっしょ、いっしょ、に、いく、いこ、いっ、て……ね、あなた、あなた、あなた、ね、んっ! い、いい! あな、た、ね、いく、いくから、ね、ね、ねっ!
あな、た、いく、ね、あな、いっ、ん、んはぁ!」
互いに力強く抱きしめ合い、腰は止まる。血に代わり、ドクドクと白濁液が妻へと流れ込む。
「はぁ、はぁ……ん、本当に……激しかったわ。なんか普段のあなたと……ん? ちょっと、あなた?」
一呼吸置いて、俺の腰はまた動き始めた。それに妻は驚きの声を上げたが、妻の腰も俺に合わせ動き始める。
「ごめん……なんだか止まらない」
「もう……うふ、激しいあなたもステキよ」
血の味がするキス。湿った音が上から下から室内に響いた。
原因は間違いなく、あの腰痛薬だろう。薬の副作用なのか、あの甘い香りにどうやら何らかの興奮剤的な要素が含まれているようだ。聞けば、どうやら妻もあの香りを嗅いだことで、マッサージと塗り薬による腰痛の緩和以上に性的な心地よさが心身を支配していったらしい。
「イテテテ……」
薬としての効果はある。夫婦の営みを行う上でも効果はある。しかし効果がありすぎるのは問題だ。
「あなた、大丈夫?」
「俺はなんとか……」
腰に手を当てる俺に妻が気遣う。意識を失うまで腰を振り続ければ、俺も妻も、腰痛になって当たり前だ。マッサージを行うつもりが腰痛を悪化させては本末転倒ではないか。
「これはもう使わない方が良いな」
入り用だと思い多めに購入した腰痛薬だが、逆効果ではもう使えないだろう。
「んー……」
しかし、惜しい。昨夜の激しかった夜は、俺にしても妻にしても、病み付きになりそうなほどの悦楽。あれを経験してしまっては、もう使わないと言う俺の意見に妻が同意しかねているのも判る。
「……一度あの店に相談するか」
「うん!」
笑みを浮かべる妻は可愛い。その笑みが意味するものを考えると、なんと妻は淫乱なのか……そこに心底惚れている俺もどうなのだろうか。なんにせよ、近いうちにまたあの店に行くとしよう。
「それはそうと……会社に連絡しないと……」
俺は立てないほどに痛めた腰を気遣いながら、携帯電話の側まで、まるで蛇のようにずるずると這いずっていく。店に行けるようになるのは、一体何時になるのだろうか……。