「うわ……なんだこれ」
 魔物を相手にした薬局店。俺は「妖精学者」としてここの従業員達の「監視」を目的に店へ訪れた。入店してすぐに匂う、咽せるほどの甘い香りに俺は眉をしかめた。
「おお、来よったか。これな……ちぃと配合を間違えたやつでの」
 三人いる従業員の内一人が、俺を見るや近づきながら説明を始める。
「半人半獣用の腰痛薬なんじゃがな……痛み止めに使っている薬草を間違えてな。この甘い香りがちょいときつめに出てしまってのぉ」
 ちょいと? 咽せるほどの匂いをちょっいとと言ってのけるこいつら。その精神を俺は常に疑っている。
「湯で溶かすともっと収まるが……それでも軽い興奮剤にはなってしまうかの」
「で……売ったのか、それ」
 眉を上げ顔を背ける従業員。コイツ……配合を間違えたのも売ったのも、全部判っててやってやがるな。
「まあ、そう問題にはなるまい。ただま、腰を治すつもりがむしろ痛めておるだろうがのぉ」
 ヒャッヒャッヒャッと、三人の下卑た笑い声が店内に響く。
「……後でフォローはちゃんとしてくれよ。まったく、イタズラにもほどがある……」
 これでも彼女達はその筋のプロ。相手を見て間違いにならない程度にイタズラを施すのはお手の物……むろん、まず先にイタズラをするなと言いたいが、俺は。
「イタズラとは失敬な。わしらはただ、夫婦の愛を深める手助けをしてやろうと……」
「やっぱり確信してやってるんか」
 売りつけられた人が誰だか知らないが、夫婦というキーワードを口にしたという事は、彼女達は相手が誰だか判っていたということか。売りつけられた人が誰かは知らないが、ありがた迷惑だったろうに。
「ところでお前さん、今日はなんの用だい。わしらの屋敷ではなくこっちに顔を出すとは」
「ん、ちょっと足りない薬草があってね……」
 まあ、ありがた迷惑でもフォローはしっかりしてくれると信じているよ。そういった意味では信頼している彼女達の手際に呆れと関心を同居させながら、俺は目的の薬草を注文した。

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