縛る縄、繋がる心

 女性が恥じらう姿というものは、それを見る男に様々な感情を抱かせる。その大半は、可愛らしいとか愛らしいとか、好意的に女性を受け止めるだろう。
 しかし、今俺が……恥じらう妻に対し抱いている感情は、戸惑い。
「今夜は……これで?」
 妻はこれまで俺を悦ばせる為に、様々な格好……コスプレをしてくれた。
 ネコミミメイド服に始まり、ナース、ウエイトレスと続き、婦警、チャイナドレス、セーラー服等々。前回は体操着……ああ、彼女の身体特徴上、ブルマが無かったのは残念だったが……
 いや、そんなことはどうでも良い。というより、これを口にすると妻が悲しむ。
 妻の下半身は蛇、種族的に言えばラミア。そう、彼女は人間ではない。そんな妻だからこそ、人間の女性に妙な嫉妬を抱くことがある。
 そもそも妻がコスプレをし始めたのは、俺が隠し持っていたAVがきっかけだったか。コスプレ好きだった俺は当然そちら方面のAVを収集していたわけだが、やはり人間の女性の方が好きなのかと、AVを見つけた妻が激怒。嫉妬した妻は次の日にAVと同じネコミミメイドの姿で俺を求めてきた。どうも妻は、俺の目が人間の女性の向くのが我慢ならないらしい。
 だから妻の前で、「ブルマは良いなぁ」などと言えるはずもない。ブルマをはけない妻が「やはり人間の女性の方が……」と嫉妬するのは目に見えている。
 その妻が今夜の衣装……いや、これは衣装といえないだろうが……それを二人の間に起き、恥じらっている。
「それで……私を縛って欲しいの」
 頬を赤らめる妻は可愛い。が、俺はどう反応すれば良いのやら。
 ベッドの上には、真っ白な長い縄が置かれている。
 俗に言うSMで使用するような荒縄ではなく、手触りはかなり滑らかで良い。妻の話では、これは「アルケニーの糸」で作られた縄であり、きつく縛っても肌に跡が残りにくいのだとか。
 ソフトSMにストッキングを用いるのと同じような物か……という解釈は正しいのだろうか。
「いやでも……縛り方とかよく知らないし」
 反応として正しい返答だったかはもう俺にもよく判らない。
 この手のプレイに興味は……あるにはあるが、しかしこう、「SM」となると自分には敷居が高い。先ほどの言葉ではないが、それこそストッキングでのソフトSMならまだしも、本格的な縄を持ち出されては、色々な意味でどう対処して良いか全く見当が付かない。
「あっ、それは大丈夫ですから……」
 妻が言うには、この縄には魔法が掛けられており、簡単な呪文で脱着可能という便利なSMグッズなのだとか。
 ……魔法というそのファンタジーなファクターには、ラミアを妻に持つ身として驚きはしないが、そんなSMグッズを開発する者がこの世にいることがむしろ驚きだ。
 世の中、どんなことからもどんな物からもエロ方面へと発想展開していく者達がいると言うことか。
 そんな魔法の白い縄を何故持っているのかと尋ねたところ、なんでも妻が同郷の友人に衣装を返却しにその友人の住まいへと訪れた際に、その友人の知り合いだという三人の女性に会い、譲り受けたのだとか。
「その、たっ、たまにはこういうのも……悦んでくれるかなって……」
 首まで真っ赤になった妻は本当に愛らしいが、その妻がこんな申し出をするなんて……どうやら、その縄をくれた三人に色々と言い含められているらしく、鵜呑みにした妻はSMなどこれまで全く興味を持っていなかったにもかかわらず俺のためにとけなげに……なんと愛らしいことか。
 そんな愛らしい我妻を、さて俺は縛ることが出来るのか? そのようなことをして本当に良いのか?
「あの……お嫌い、ですか?」
 瞳を潤ませ見つめられたら、愛妻家の俺が抵抗など出来るはずもなかった。

 美しい。
 これまで何度も妻の裸体を目にしてきたが、その度に妻の様々な魅力を目にして心を熱くしてきた。
 今夜の妻は、とても色っぽい。縄がこれほどまで女性を怪しげに艶やかに見せる物だとは思いもしなかった。
 腕を後ろに回し縛り固定することで、強制的に背筋が伸び胸も張る。これだけで美しい姿勢が保たれている。その上で縄が彼女のたわわな胸を、まるで補整下着のように支え強調してくれる。
 そして縄が白いことで……ここは好みの問題が色濃く出るが……妻の透き通るような白い肌になじんでいる。ハッキリと縄で縛っているのが見て取れる方が興奮するかもしれないが、私にはこちらの方が妻の美しさを際だたせてくれていると感じる。目立たない割には、柔らかな妻の身体に縄が食い込んでいるのはよく判る。その事実がより興奮させてくれる。
「ちょっとキツイかも……でも、「あなたに」縛られてるって実感できて……その、なんか……」
 語尾をすぼめながら恥ずかしがる妻はとても愛らしい。
 人は相手の感情を直接感覚で得ることは出来ない。しかしそれを拘束感という感覚で体現できる事が、つまりは愛情を肌で感じるということに繋がる。少なくとも妻はそう思いこんでおり、そして俺は恥ずかしがる妻を見る、つまり視覚によって自分の愛が妻を悦ばせていることを実感する。
 これがSMの醍醐味なのだろうか?
 正直本格的なSM愛好家の心情はよく判らないが、少なくとも私達夫婦は、たった一本の縄でお互いの愛情を確かめ合っていた。
「あの、あなた……それを胸に……塗り込んでください……」
 妻が向ける視線の先にはもう一つの道具、真っ白なローションがあった。これも縄と一緒に譲り受けたらしいが、特注ではある物のさすがにこのローションにまで魔法の力は働いていないらしい。
 妻にねだられ、俺はそのローションを直接胸へだらだらとかけ、そしてまんべんなくそれをすり込むように胸を揉んでいく。
「んっ……もっと強く揉んでも……あっ、い、はあ……いつもより、なんだか……んっ!」
 元々妻の胸は感度が良い方だが、今日はまた一段と感じやすくなっているようだ。
 ローションによって力を入れても自然と滑り力が逃げるため、それがほどよいマッサージのようになっている。そして何より、いつもと違うプレイに妻が興奮しているのも、彼女の喘ぎをより色艶の濃い物にしている要因となっているのだろう。
「あの、もう……大丈夫です。そのまま、横になってもらえますか?」
 息を僅かに弾ませながら、妻は名残惜しみつつ俺に「次」へ移るよう催促する。
 素直に俺はベッドに横たわる。我が息子は既に興奮しきっており、いきり立っている。その肉棒を見つめながら、妻がにじり寄る。そしてゆっくりと上半身を倒し、そそり立つ棒にたわわな胸を押しつけて来る。
 そして妻は、胸を押しつけたまま身体を上下に、こすりつけるよう動き始めた。
「いかがですか? きっ、気持ちいい……ですか?」
 縄で縛っているおかげで胸が横へ型くずれしないこともあり、谷間にしっかりとはさまれる肉棒。強く押しつけているもののローションのおかげで抵抗無く肉棒が胸にしごかれていく。
 ソープ嬢によるマットプレイ。それを妻が縛られながらもベッドの上で懸命に行ってくれている。
 しかもただ奉仕しているだけではない。
「これ……私も、いい……胸、胸にあなたのが、ちゃんと……んっ、感じるの、あなたのを感じるの……谷間が、谷間が……感じるの」
 普通パイズリをする場合、自分で胸を掴み横から押さえつける必要がある。しかし今妻の腕は後ろで縛られて使えない。それでも縄できつく縛った胸は多少形を崩すものの上から身体ごと押しつけていることもあり、しっかりと俺の肉棒をはさみ逃がさない。
 ローションの滑りもあり、まるで膣の中に入れているかのような心地よさ。いや、妻の中とはまた違う快楽……膣と口内が違うように、これはこれで、また別の快楽。
 まずい、このままではもうじき……。
「いく? いくの? あなた……出して、このまま逝って……私も、感じてるの、気持ち、いいの……乳首、乳首も擦れて、んっ、いい、から、このまま……」
 我慢しきれなくなり、僅かに腰が動いたのを妻がすぐに察していた。そしてより身体を激しく動かし、俺の、そして自らの快楽をどんどん高めていく。俺は下から腰を懸命に動かし妻の動きに合わせる。
「いって、いって、あなた、たくさん、んっ、あ……すごい、まだ、出てる……ビクビクしてる、私の胸でビクビクしてる……」
 妻が言うように、俺は白濁液を大量にぶちまけていた。
 彼女の胸と、そして俺の腹に掛かった白濁液の量は確かに多い。貯めていたわけでもないのにこんなに出るとは……自分でも驚いているが、よほど気持ちよかったのだろう。
「いっぱい出してくれましたね……ふふ」
 少し身体を下げ、妻は俺の腹に掛かった白濁液をペロペロと舐めだした。
 ローション混じりなので危険なのでは? と俺は妻に止めるよう進言したが、妻が言うには、このローションは口に含んでも大丈夫なように作られているらしい。
 魔法こそ掛けられていないが、製法そのものは魔法的な要素が強く、なんでも「スライム」を作るのに似ているらしい。
 ローションとスライム……似て非なる物同士とはいえ、色々な物にエロ要素を絡める発想力というものに、俺は色々な物を通り越して感心してしまった。
「ではこのまま……よろしいですか?」
 俺からの返答を聞くまでもなく、妻は縛られた上半身を、彼女の下半身のようにくねらせながら俺の上を滑っていく。そして起用に腰の位置を合わせ、既にローションを練りたくったかのようにぐちゅぐちゅに濡れた淫唇を肉棒の先に当てる。
「んっ……くぁあぁっ!」
 よほどマットプレイで興奮しきっていたのだろうか……入れた瞬間、妻の身体が小刻みに震えた。
 どうやら入れた瞬間に逝ってしまったらしく、ぎゅっと肉棒が膣に握られている。
「……んっ、ん……あっ、んっ……」
 しかし妻はすぐに腰を動かし始めた。
「すご、い……あなたの、いつもより……ふと、ふとい……いい、きもち、いい、です、あな、た……んっ、いっ、あ、あはぁ……」
 俺に言わせると、膣の締め付けもいつも以上だ。
 それでもスムーズに腰が動くのは、既に塗りつけられていたローションと、そしてそれ以上にあふれ出ていた愛液のおかげだろう。
 妻は腰を動かしながら、肩を揺らし胸を俺の身体にこすりつけている。
 腕が自由にならない分、身体全体で俺を求めてきた。
 俺は下から抱きしめたかった。懸命な妻にもっと密着し妻を感じたかった。
 しかしそうすると彼女の動きを封じてしまうため、抱きしめることは出来ない。
縛られていないのに俺の腕は妻を抱きしめられない。そのもどかしさが、下からの突き上げを激しくしていった。
「あっ、あなた、はげ、しい、い、いん、いい! おく、おくに、とどいてる、とどいてる! もっと、もっと、もっと、もっとぉ!」
 こんなに乱れた妻を見るのは初めてだ。元々妻は種としては淫乱な方ではあったが、性格は嫉妬深いが奥ゆかしい。故に乱れることそのものを恥ずかしがる傾向にあったのだが……コスプレをするようになってから、妻は大胆になってきたような気がする。
 視られることでの快楽。恥ずかしいと感じるからこその快楽……羞恥による快楽に目覚めたということなのだろうか?
 そして俺は、そんな妻に興奮している。つまり俺も……という事なのだろうか?
 これも夫婦故の愛情なのだと思う。多少複雑にも思うが、乱れ悦んでいる妻はとても美しい。ならそれでいいではないか。
「あなた、ほしい……ほしいの、ねえ、もう、いい、ですか?」
 興奮しきった妻がもう一つの快楽を求めてきた。俺は黙って首を傾ける。開かれた唇から牙がのぞき見え、その牙が俺の首に突き立てられる。
 吸血鬼でもあるラミア。妻は俺の血を求め、そしてさらなる快楽を飲み込んでいく。
俺は血を吸われることで僅かに気が遠くなる。ぼやける思考のただ中にあって、肉棒から伝えられる快楽がより鮮明になっていく。
 血を求め首にむしゃぶりつきながらも激しい腰は止まらない。
 意識が半ば遮断されながらも激しい腰は止まらない。
 羞恥がどうとか先ほどまで考えてもいたが……結局のところ、それは「ここ」まで行き着く過程の一つに過ぎない。
 結局は本能と愛情が、互いを求めているに過ぎない。より心も体も一つになろうと無意識に腰が動き快楽を共有していく。それだけだ。
「んっ、ちゅ、じゅる……くちゅ、ん、おいし、い、いい、きもち、いい、あな、あな、た、いい、すき、すき……あい、してる、いい、きも、きもち、いい、いい、ん、くちゅ、ちゅぅ……」
 血を吸いながらも淫らなあえぎは止まらず、それでも愛を口にする妻。
 愛おしい。この女性を愛し妻に出来た俺は、本当に幸せ者だ。
「いい、いく、いくの、あなた、いく、いく、あなた、いっ、いく……ね、おねが、い、いっしょ、いっしょ、いっしょに、あな、あなた、あなた、ね、ねぇ、いく、いく、いく、いっ……んっ、くぅあぁ!!」
 ついに俺は我慢しきれず、妻を力強く抱きしめる。足も妻の腰へ強く絡まっていく。と同時に、白濁した愛が妻へと注がれ、そして妻は膣をぎゅっとすぼめその愛を受け入れていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……あなた……」
 口元から僅かに血を滴らせながら、妻が俺を見つめていた。黙って、俺は妻の頭を自分に引き寄せ、唇を重ねる。
 互いの舌が絡まる。くちゅくちゅと音を立て、愛を確かめ合う。
 そしていつの間にか、別なところからもくちゅくちゅと湿った音がし始める。
「このまま……あの、いいですか?」
 確認するまでもなく、俺の足が絡まったまま妻の腰は左右にくねりだしていた。
 俺はただ愛しい人に微笑み、横に動く妻の腰へ縦の振動を加えていった。
 縛られているのは妻で、SMでいうところの「M」は妻になっているはずなのだが、これでは妻がS……攻めているのは妻の方だ。
 むろん、それも悪くない。むしろ積極的な妻は歓迎だ。
 そもそも俺達夫婦はSMに興味はない。ただお互いの愛を確認する過程の一つに過ぎないだけだ。
 幸い明日は休日。始まったばかりの夜を桃色に染めるには申し分なかった。

おまけ?