誘い、そして選択〜女郎蜘蛛〜

 ほんの出来心だった。いや、そもそもあの時、「心」があったのか? まさかこんな事になるなんて思いもしなかった。
 何気ない路地。大通りからふと路地に目をやると、そこに女性が立っていた。
 とても、それはそれはとても美しい女性だった。
 薄暗い路地にあって、白い肌はよく映え、唇は艶やかに赤く、長い黒髪は煌びやかに輝いていた。
 一目で、その女性に釘付けとなり俺は足を止めた。
 そして再び動き出した時は、方向を90度変えていた。
 白い肌と黒い髪、そして真っ赤な唇。
 その輝きに惹かれるように、そう、まるで外灯に飛び込む蛾のように、
 俺は何も考えることなく女性に近づいていった。
 魅了された。そうとしか言いようがない。俺はそれが当然のように一歩一歩近づいていった。
 何も考えられない。ただ、女性の魅惑的な笑顔が近づくに連れ、心が躍るように騒ぎ立てていくのだけが実感出来た。
 あれはもしかしたら、喜びではなく本能的な警戒だったのかもしれない。
 しかし別の本能、雄としての本能が、美女に惹き付けられずにはいられなかった。
 手を伸ばせば、美しい肌に触れられる。そんな距離にまで近づいた時、俺は意識を失った。
 そして気付けば、俺は捕らわれていた。
 いつの間にか俺は全裸になっており、両手両足をX字に大きく開かされ、ガッチリと「糸」で固定させられている。
 何故こんな事に? その疑問を思い浮かべる前に、俺は奇妙で恐ろしい事に気付いた。
 俺が貼り付けられているのは、ベッドの上でも壁でもない。
 蜘蛛の巣だ。巨大な蜘蛛の巣に、俺は貼り付けられている。
「お目覚めね……」
 不意に声がした。凛と透き通る、しかし香り漂う甘い声。
 俺は声のした頭上へ、どうにか顔を動かし視線を向けた。
 そこには、あの美女がいた。
 彼女も全裸。この人も俺のように捕まったのだろうか?
 いや違う。そうじゃない。
 彼女の美しい黒髪と唇は気を失う前に見た通り。
 白い肌もそう。
 途中までは。
 腰の下、ちょうど「人ならば」足の付け根、太股があるはずのところで美しい肌は途切れた。
 代わりに、産毛の生えた、黒く禍々しい色と肌質へと変貌している。
 そして変貌しているのは肌だけではない。
 人の足が無い。代わりに、蜘蛛の腹と足が生えていた。
 上半身は美しい女性。下半身は蜘蛛。
 何者なのか、それは混乱した俺にはよく解らない。ただ一つ言える事があるとすれば……
 彼女は人間じゃない。
「いいわ、無理しないで。あなたは何もしなくて良いの」
 もがく俺に、蜘蛛の女性が耳元で囁く。
 そしてカサカサと蜘蛛の巣を難なく移動し、俺の足下へと。
「あらあら、元気ないわね。そんなに緊張しなくても良いのよ?」
 何を言っている?
 蜘蛛女は足先で、恐怖に縮こまった俺の肉棒を軽く小突きながら言っている。
 何をする気なんだ?
「それじゃあ、まずはお口でしてあげる」
 半身を屈め、蜘蛛女はあろう事か、俺の肉棒を足に変わって舌先で小突き始めた。
 最小限にまで縮んでいる俺の肉棒は、もはや「棒」ではない。それほどまでに縮こまっている。
 にも関わらず、ツンツンと突かれるたびに、ペロリと舐められるたびに、肉棒はすぐに「棒」となり、強度を増していく。
「ふふ、ここはとっても素直なのね」
 自分でも信じられない。
 頭は未だに混乱したまま。状況もまだ把握し切れていないのに、間違いなく俺は興奮していた。
 通常の時よりも立派に棒としての大きさと強度を身につけた肉棒を、蜘蛛女は舌だけで舐め回す。
 ピチャピチャと唾液の音を起てながら、舌は尿道の先端から袋の裏まで、丹念に舐め上げていく。
「ぅあぁ……」
 思わず声が出てしまう。混乱した中にあっても、俺は強烈な快楽を感じていた。
「良い声ね。もっと聞かせてくれるかしら?」
 指先で肉棒をつまむように持ち、そして上下に擦り始める。そうしながらも、舌は止まらない。
 なんて技だ。味わった事のない快楽に、もう俺の脳は混乱を押しのけ快楽一色に染まっていた。
「何処まで耐えられるかしら? 我慢すればする程気持ちいいから、頑張りなさい」
 蜘蛛女の言葉が終わるやいなや、肉棒全体がなま暖かさに包まれた。
 口の中に肉棒を根本まで全て包まれていた。
 根本は唇。棹は舌。先端は喉。ディープスロートで肉棒全てに刺激を与え続ける蜘蛛女。
 俺は彼女が言うように、耐えた。
 この快感、もっともっと、長く味わいたい。
 痺れるような快楽が肉棒から脳へ伝わるその神経の道中、快楽は身体全体へも刺激を与えているのだろうか。
 俺は全身を快楽の波にのまれたかのように奮わせていた。
 唾液の音だけが木霊する空間。蜘蛛の巣という不安定な状況が、より全身を快楽へ集中させるのだろうか。
 何時までもこのままでいたい。しかしそれは叶わなかった。
「んっ!」
 とうとう耐えきれず、俺は彼女の喉へ直接、白濁液を注ぎ込んだ。
「んくっ……んっ……」
 喉を鳴らしごくごくと、彼女は俺の白濁液を飲み込んでいる。
「ふぅ……美味しかったわ」
 管に残った液も全て吸い尽くし、蜘蛛女は唇に残った白濁液を手の甲で拭いながら言った。
 ああ、何故だろう。俺は今「美味しい」と言われ幸せを感じている。
 もはや、この異様な状況に不信も不安もなかった。
 ただただ、全身を駆け抜けた快楽の余韻を楽しみながら、そして去ってしまった快楽を惜しみながら、惚けていた。
「ねぇ、こっちを見て」
 言われるまま、俺は頭を上げ足下の方へ視線を送る。
 先には、自ら陰門を指で開き俺に見せつけている美女がいた。
 その光景に、期待と興奮を感じた肉棒がすぐさま反応した。
 ぶらりと垂れていた肉棒は、もういきり立ち反り返っている。
「いいわぁ、とてもステキ。もうここに入れたくてたまらないのかしら?」
 俺はブンブンと首を縦に振る。
 もはや、理性なんて欠片も残っていない。
 身動きの取れないこの状況で、思い描いているのは新たな快楽への渇望のみ。
「そう。なら待たせちゃ悪いわね。ほら、入れてあげるわ」
 ビクビクと震える肉棒を彼女は掴み、そして俺をまたぐ。
「んん!」
 ぐっと差し込まれる肉棒。俺は今、彼女の中に入った。
 ああ、なんと心地良いのだろうか。
 肉棒の全てを、ヒダが包んでいる。そしてヒダは彼女の動きに合わせ、ピッタリと張り付いたまま激しく肉棒を擦り上げていく。
 捕らえた獲物は逃がさない。蜘蛛女である彼女の中は、まさに蜘蛛そのもの。
「ん、おっきい……久しぶりの、獲物は、大収穫、だった、みたいね……あっ、んふぁ!」
 激しく腰を奮う彼女。その度に、蜘蛛の巣は上下に激しく揺れ動く。
 この反動がそのまま、肉棒の突き上げになり、より俺と彼女を刺激させる。
「いい、いいわぁ、これ、ステキ……んっ、はぁ、気持ちいい、いいわよ、んぁっ!」
 感じてる、感じている。彼女の喘ぎが俺の悦び。そして彼女を悦ばせる肉棒からも、快楽の波が全身をかめ巡る。
 腰と巣同様に激しく揺れる胸を自ら両手で鷲掴み、彼女はめちゃくちゃに揉み始めた。
「もっと、もっと奥、ん、いい、奥まで、届いてる、ふわぁ、ん、いい、そろそろ、いく、ん、あぁ」
 全身が快楽で痺れるような感じ。限界が近い事を告げていた。
 嫌だ。俺はもっと感じていたい。
 出来うるだけ我慢はしているが、それも限度がある。激しい動きに耐えかねて、俺は彼女の奥へと射精してしまった。
「来てる、精液、来てる、いく、私も逝くから、もうちょっとだけ、がんばっ、ん、いく、んはぁ、ん、あっ、ふあぁ!」
 俺の上で半身をのけぞらせ、彼女の動きが止まった。
 二度目だというのに、俺の射精はまだ止まらない。勢いはないが、まだチロチロと彼女の中で出続けている。
 しばし余韻を愉しんだ後、彼女はゆっくりと俺の物を引き抜いた。
 だらだらと、彼女の恥丘から俺の精液が零れている。それを指ですくい、彼女はチュパチュパと舐めている。
「気持ち良かったわ……いいわね、あなた。しばらく飼ってあげようかしら」
 飼う? どういう事だろうか。
「解るでしょ? あなただってもっと気持ちいいコトしたいでしょ? ふふ、私が飽きるまで、このまま飼ってあげるわよ……」
 ああ、そういう事か。
 なら、俺の答えは決まっている。
 俺は……


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