絶対数が、必ずしも「種」の社会的権限を握るとは限らない。個々の能力やそれまでの歴史が、社会的な優位に立つのは同じ「種」の中でもあり得ること。ならば、それが種族間であったとしても何ら不思議ではない。
人間は、自分が人間だから自分達を絶対的な種族だと思いがちだ。事実、そのような社会の中にいるから。しかし……そうでない世界がどこかにあっても、何ら不思議ではないはずだ。これは、人類が他種族よりも低い地位にある、そんな世界の物語。
メイド服に身を包んだ一人の女性が、繁華街を歩いている。その身なりを見れば、彼女がどこかの屋敷なりに勤めている使用人であることは明白。それ以前に、彼女が「人間」である事、それが使用人である証でもある。人間は多くの種族にとって「人権のない愛玩生物」であり、子を儲けるための「手段」であり……誰かに「所有権」を握られていることが社会的な保身になっている、そんな種族だ。だから彼女が人間である事こそが、誰かの所有物である証拠になる。
「ナタリー、もう着いたかしら?」
女性から声がする。しかし女性が口を開いた様子はない。だが彼女から間違いなく声はする。良く聞けば、その声はくぐもっており……女性の大きく膨らんだお腹、そのわずか下当たりから漏れ出ている。
「お嬢様、もうしばらくお待ちください……直に到着します」
声の主に、今度は間違いなく女性が口を開き応えていた。俯きながら腹をさすり、まるで我が子に語りかけるような動作で。しかし動作と口調はまるで別。語りかける声には敬意が込められていた。
「そう……でも外の様子を見たいわ。出るわよ」
そう宣言が聞こえると、女性は慌ててスカートの裾を持ち上げた。
人々が往来する街中で、だ。
女性は頬を赤らめている。あからさまに恥じらっているのが見て取れた。しかしその行為は大胆。何処にも戸惑いは感じられなかった。
驚くことに、女性は下着を着用していなかった。しかも女性の股間……淫唇の周囲にあるはずの陰毛が、ない。綺麗に全て剃られていた。だがこの程度、まだ驚くには値しない。驚くべきは、彼女の無防備な淫唇がパックリと開き、そこから液状ゲルがズルリと垂れ落ちて来たこと……そのゲルは自ら形を変え、持ち上がり、人の姿を形成していった。
「あら、まだこんな所……ちょっと遅くありません?」
「も、申し訳ありません……」
真っ赤な顔をしながらも謝罪する女性。僅かに瞳を潤ませているのは、謝罪の気持ちから……だけではないだろう。
「あら、なによ。まだ恥ずかしいの?」
女性の中から這い出てきたゲルの女性……スライム族の女性は、まだ一部を女性の中に入れたまま自立し、女性に向き直りながら話しかけた。
街中で己の秘所を晒す。当然人として恥ずかしい行為だろう。だがこの世界での人間は、必ずしも「羞恥心」を持っているとは限らない。産まれたときから「物」として育てられる人間は、育て方によって「モラル」が大きく異なる。よって、初めから性具として育てられる人間は羞恥心をまったく持たない者もいるし、妙なところにプライドを持ったり……様々。彼女の場合、他の種族同様の「基本的な羞恥心」は持ち合わせているようだ。
「申し訳ありません……」
恥ずかしがりながらも謝罪する女性。それを見て、スライムは口元をつり上げている。あからさまに、恥ずかしがる女性の姿を見て愉しんでいるのだ。まるでこれを愉しむために、羞恥心を彼女に持たせたかのような……そんな様子が見て取れる。
翼を生やした者、角を生やした者、半身が動物の者……様々な「人々」がメイドと主のやり取りを見ている。見ながら、スライムと同じようにほくそ笑んでいた。皆、慣れているのだ。この街では日常茶飯事な光景だから。
「……あら? 私が入っていた時より「入り口」が湿ってきたわよ?」
「はい……その……」
「なぁにぃ? もしかして感じてる? みんなに恥ずかしいところを見られて感じてるの?」
グチュグチュと、あからさまに湿った音が大きく聞こえ始めた。スライムと女性を繋ぐ場所……そこから。入れていた身体の一部を僅かに太くし、前後に動かし始めるスライム。女性はスカートをつまみ上げたまま足を振るわせ、瞳を閉じ耐えている。
「どうしたの? ちゃんと私の顔を見て話をしなさいよ」
「は、い……すみませんお嬢様……」
ハァハァと息を荒げながら、言われた通り真っ直ぐスライムを熱く見つめる女性。
「ちょっと……なにその顔。感じてるの? まったく恥ずかしいわね。こんな街中で、もしかして逝っちゃうの?」
あからさまに女性を逝かせようとしているスライムは、更に女性と繋がっている自分の身体を太くし、そしてグチュグチュと派手に音をかき鳴らしながらその身体を動かしている。
「すみません……がまん、できません……」
「どうしようもないメイドね。堪え性も無いの? これで私の「育て親」とか、ホント恥ずかしいわ」
「おじょう……さま……あ、んっ!」
「あらあら、声まで出して。まったく、淫乱にもほどがあるわ」
自立していたスライムの身体が、先ほどまでより小さくなっている。代わって、小さくなっていた女性の腹がまた大きくなり始めていた。だがすぐにスライムは大きく、女性の腹は小さくなり……そしてまた互いの大きさに変化が何度も訪れる。
「そん、はげ……おっ、おじょう、さ、んぁあ!」
「なによ、逝きたいんでしょ? なら逝きなさいよ。ほら、みんなが見てる中で逝きなさいよ」
見られている。事実周囲から様々な視線……熱かったり冷ややかだったり、馴染みだったり見慣れなかったり……ありとあらゆる視線が二人に注がれていた。それを感じながら、女性は頬を真っ赤にし喘ぎ続けた。
「いっ、いきま、す……いきます、おじょう、さま……ん、ふぁあ!」
「なら、皆さんにちゃんと報告なさい。突然逝ったら皆さん驚くでしょ?」
むろん、突然も何も一部始終見ているのだ。驚く野次馬はいないが……しかし女性は自分の所有権を握るスライムの主に従う他ない。
「は、はい……み、みなさん、わた、わたしは、み、みなさんに、みられ、ながら……ふぁあ! お、おじょうさま、いかされ、まふ……あ、あの、み、みて、みてください、わたし、いか、いかされます、から……」
「ふふ、そこまで言えなんて言ってないでしょ? でもいいわ、皆さんに見られながら逝ってしまいなさい」
「は、ふあ、ふぁい、い、いきま、みて、いき、い、くぁ! ん、あぁあああ!」
がくりと膝を折り、絶叫する女性。身体を震わせながら両手を地に着け、荒れた息を整えようとしている。
肩で息していた女性も、やがては落ち着き……まるで何事もなかったかのように立ち上がった。周囲も、既に日常へと戻っていた……いや、そもそも今起きた光景ですら、日常なのだ。特に気を強く止める者など誰もいなかった。
「では参ります、お嬢様」
「ええ、お願い」
大きくなったお腹をさすりながら、メイドはまた歩を進め始めた。
「……お嬢様」
「何?」
「……ありがとうございます」
腹の中から答えは返ってこなかった。だが、その答えは女性だけには伝わっている。お腹の中から彼女達だけに許された伝達方法で。
自分のお腹をさする女性は、微笑んでいた。その笑みは、まるで子を宿した母のような、あるいは恋人と暮らす乙女のような、暖かみのあるものだった。