猛牛の本性

 その女性は、怯えていた。
 まだ成人になったばかりなのだろう。どこかまだ幼さを、顔と雰囲気に宿している女性。それなりに世間を見てきた……その自負に、どこか甘えがあったのかも知れない。
 こんな事になるなんて。そう、彼女は思っただろう。けれど……「ここ」に来るということ。それはすなわち、「こうなる事」を既に意味していた。彼女もそれは承知していたはず。承知してここに来たはず。ただ、彼女の想像を、現実が大きく上回った……それだけの話。
「こっ……こんなのって……」
 女性が怯える、その原因は今彼女の眼前で仁王立ちしている。
「今更……自分がここに来た理由はわかっているんだろう?」
 長い舌でベロリと突き出た口を嘗め回しながら、その者は語った。怯えるなと言われて、はいそうですねと震えを止められるなら誰でもそうする。それが出来ないから怯え続けるのだ。ましてこのような言いぐさでは、ますます怯えてしまうのは当然の事。まして……この者が「喋った」という事にも、その怯えへ拍車を掛けていた。
 半牛半人。首から上と腰から下は完全な牛。挟まれた間は屈強な大男。ミノタウロスと呼ばれるモンスター。その姿だけでも、怯えるには充分。ましてそれが動き、喋るのだから……怯えを通り越しパニックに陥ったとしても、誰も彼女を責められないだろう。
 だが今彼女は、怯えるその視線を猛獣の顔へ向けてはいない。視線はもっと下……雄々しくそびえ起つ、まさに雄のシンボルそのものへ。
 実のところ、彼女の「怯え」はそれにあった。
「気に入ったか?」
 突き出た口が、ニタリと笑う。
 人ほど表情が豊かではない牛が笑う。笑っていると、判る。それがまた恐怖を募らせる事にも成りかねるが、幸か不幸か、女性はまったくそちらを見ていない。
 見る余裕など、有りはしない。
 女性は自分の腕ほどもある、そのシンボルから目が離せなかった。
 ここに来た理由。置かれた状況。全裸の自分と、同じく全裸であらゆるたくましさを惜しげもなく披露する半牛。見つめているシンボルが自分にもたらす影響をイメージし、更に怯え身を震わせる……今女性に出来るのは、それだけだった。
「さあ、宴の始まりだ」
「いっ、いや……」
 身を強張らせ拒絶する女性。しかし逃げる事はない。逃げる事は許されないから。
 半牛はそんな女性の腕を強引に掴み、引き寄せる。ふわりと浮くように、女性は軽々と半牛の懐へと引き寄せられた。
「そう怯えるな。これから行うは、快楽の宴ぞ」
 いやらしい笑い。第三者が半牛を見たならば、その下卑た笑いに気づけただろう。むろん笑いを向けられた女性に半牛の表情を知る余裕はない。まして表情を観察する間もなく、長く太い舌が彼女の頬を舐め始めたならば。
「ひっ、いや……ん、んぐ、クチュ……」
 そしてその舌は、彼女の口内へと進入していく。
 キス……と呼べるかは定かではない。強いて言うならばディープキスか。大きく開いた口が、まるで女性を頭から食らいつくかのように迫る。しかしその口が閉じることはない。代わりに、太い舌が女性の口を大きく広げさせ、口内をウネウネと動き回る。
 女性からしてみれば、ディープキスと言うよりはディープスロートに近いかも知れない。単語だけで表現すればキスかも知れないが、しかし女性の身に置き換えるなら、これをキスと呼ぶには強引すぎる。
「ふぐ、ん、グチュ、ん、くふ、ぐっ、ん! クチュ、チュ……ん、んぐぅ!」
 苦しそうに顔を歪める女性。うっすらと目に涙をためている。しかし……それだけではない。
 あれだけ怯えていた女性が、震えていたはずの身を完全に半牛へゆだねている。頬が赤いのも、苦しいからだけではない様子。
「クチュ、ん、グチュ、チュ……ん、はっ、あ……」
 ズルリと、半牛の舌が女性から引き抜かれていく。その後を追いたいのか、女性の可愛らしい舌がチロリと大きく開いた口からその姿を覗かせる。
 舌を引き抜かれた後の女性……彼女が惚けた表情を浮かべている事から、先ほどまでの「舌責め」が女性にどんな「影響」を与えたのか、それを想像するのは容易い。
「少しは宴を楽しむ気になったようだな」
「はっ……はい……」
 緊張が完全に解けた女性は、戸惑いながらも素直に返事をする。気を良くしたのか、半牛はまた下卑た笑いを浮かべている。
 いったい、どんな媚薬を用いたのだろうか?
 女性の変わり様を見てそう疑問を持つ者がいたとしても不思議ではない。しかし半牛がそのような薬を使った形跡はなく、事実そんな薬など使う必要はない。むろん、魔法だとか催眠術だとか、そんなファンタスティックな技術によるものでもない。半牛の存在がファンタスティックだという事実はさておいても。
「そこ……んっ! しっ、舌……すご、く、んぁあ!」
 巨大なナメクジが女性の身体を這いずり回るかのよう。有り体の表現だが、しかしこれほど的確な表現は他にない。
 半牛の長く太い舌が女性の首、そして鎖骨あたりを唾液で湿らせながら下っていき……乳房とその先にある乳首へとたどり着く。舌が乳房の上で踊り、乳房はそれに応えるよう若さと弾力を惜しげ無く披露する。揺れる度弾く度、乳房の持ち主は桃色にでも着色されそうな吐息を漏らしている。
 大きな半牛の手に身を預け横たえる女性は、大きさの対比から見れば、まるで人形のように扱われる。だが激しく身悶えする人形などいない。彼女が性感を持った人間である証が、その狂おしく悩ましげに身悶える姿にこそある。それだけ女を身悶えさせる、筆舌し難い半牛の舌技。
 女性は先ほどまで怯えていたはずなのだが、すっかり「舌」に怯えという感情を舐め取られ、そして快楽という唾液を馴染まされている。
「あ、んっ! ふあ、そこは……ん、ひぁあ!」
 舌でほぐされた乳房は、女性を支えている指先で弄ばれている。そして舌はと言えば、更に身体を下り、甘い甘い「蜜」を堪能し始めている。
「すっかり濡らしているな……やはり「ここ」に来るだけはある」
「だっ……て、こんな、んっ! はじ、はじめて、こんなの……ふぁあ!」
 背を反らし、声を上ずらせながら自身の快楽を表現する女性。それに追随するかのような、ピチャピチャと鳴り響く湿った音色。
 巨大なナメクジは女性の淫唇はおろか、突起した陰核を何度も何度も這いずり、乳房同様、いやそれ以上に女性から喘ぎ声を絞り出していく。
「こん、こんなの、うそみた、い、んぐぅ! い、きも……くふぅう! そ、こんな……あぁあ!」
 唇を押し広げ口内に入ったあの時のように、今度は別の唇……淫唇を押し広げ舌が進行する。
 人の男性器よりも大きな舌に、女性は思わず眉をひそめる。だがそれも一瞬のこと。すぐさま口元は緩み、その緩んだ口からは唾液と喘ぎが止めどなくあふれ出る。
「これ、ひっ、んっ! や、こ、こん、こんなの、で、でも、い、いっ、いあぁあ! よ、よすぎ、て、くる、くる、くるっちゃ、んぁあ!」
 悶えるどころではない。女性は身体を跳ね上げるるかのように反らし、快楽を受け止め味わっている。まさに人間業ではない快楽。それを人間である女性が味わわされているのだ。流れ込む快楽の容量は、人の女性が受け止められる許容量などとうに超えている。
「このまま狂われては面白くないな」
 ゆっくりと舌を抜き、半牛は息を荒げる女性を見下ろした。
 肩で息をするその女性は快楽の余波に身を引く付かせながら、しかし突然途切れた快楽の流入に戸惑いながら、半牛を見つめていた。
 欲情にまみれた瞳。視線は更なる快楽を半牛に要請していた。
「なぁに、すぐまた狂わせてやるよ……」
 そう半牛が宣言すると、女性の腰を両手で掴み股を開くよう命じた。女性は素直に股を開く。そうすることで与えられる快楽が何であるかを、期待しながら。
 女性が待ちこがれる快楽。それは当然、半牛の雄々しい肉棒。あれだけ酷く怯えさせ、胸を締め付ける思いをさせた肉棒も、期待に胸を膨らませる肉棒へとその存在を移り変えられていた。
 もうそこに、女性はいない。欲情した雌が、そこにいるだけ。
「ひぐあ……ん、くぅあああ!」
 雌らしい、獣のようなうめき。唾液と愛液で充分に濡れていたとはいえ、膣と肉棒のサイズは不一致。すんなりと進入が許されるような大きさではない。無理矢理ねじ込まれるその痛みに、声を上げるのは当然のこと。
 だが……雌という獣は快楽にどん欲。
「いっ、ぐ、ん……あ、くっ! ん、あ、あっ! ひぃ、ん、ふあ、くっ、あ、んん!」
 言葉にならない悲鳴と喘ぎが折り混ざりながら雌の口からあふれ出る。苦しみながらも、雌は己の膣を半牛の男根に馴染ませていく。そうやって、そうまでして、雌は快楽を得ようともがきあがき、声を上げ腰を振るった。
「グフフフ、良い声で鳴くな。そんなに気持ち良いか?」
「あっ、ん、ひぐぅ! か、ん、あ、んぁあ!」
 返事はない、ただ喘ぐだけ。その喘ぎこそが、返答になっているから。
「ひっ、ん、ふぁあ! い、あ、んあ!」
 腰を打ち付けられる度にガクガクと揺れる雌の身体。半牛はその雌の半身を起こし、また舌で雌を愛撫し始める。激しい摩擦で内部を、滑らかな摩擦で外部を刺激され、もう雌に快楽以外の感情も感覚も有りはしない。
 視線は彷徨い、意識も彷徨い、ただ快楽だけが雌を包む。口は半開き涎を垂らし振りまきながら、それでも雌は喘ぎ続けた。
「流石に締まりが良い……出すぞ」
 むろん、その問いに答える者はいない。喘ぐ雌がいるだけだ。
 問いかけからしばし、半牛は振るい続けていた腰を雌から引き抜いた。半ば投げ出されるように、半牛の手から解放され横たわる雌。そこへ、半牛がいきり起った己の男根を握りながら近づいた。
 降りかかる白濁液。雌は肌を白く染め上げられながら、ピクピクと身体を震わせていた。

「カット!」
 監督の声を聞き、私はすぐさま女性の元へ白く大きなバスタオルとティッシュの箱を持って駆けつけた。
 白目をむいて完全に気絶してる……私はバスタオルで汗と唾液と精液を綺麗に拭き取りながら、ADの子にもう一枚バスタオルを持ってくるよう指示を出す。
「大丈夫?」
「あっ……あ、はい……大丈夫……です」
 まだ完全に意識を取り戻せていないようだけど、無事なようね。ADの子が持ってきてくれた新しいバスタオルで彼女の身体をくるみながら、彼女の様子をチェックする。
 意識はもう大丈夫そうね。あと下は……見た感じ、血が出てるとか、そういう事はないみたいだけど……
「下も平気?」
「えっ……と、その、まだジンジンしてますけど、平気です」
 まったく、たいしたものね。「アレ」と初めてやって、この程度で済むんだから。というか、むしろよがって気持ちよさそうだったものね。流石は人気AV嬢ってことなのかな。それなりに下も「訓練」が行き届いていたみたい。亜人相手はこれがデビュー作らしいけど、彼女なら「こっち」の世界でもやっていけそう。
「大丈夫か?」
 その、「こっちの世界」じゃ人気の男優が、相手の女優を気遣って声を掛けてきた。
「あっ、はい。ありがとうございます」
「そうか、良かった」
 ホッと安堵するその顔は、さっきまで下卑た笑いを浮かべていたのと同一の顔とは思えないくらい穏やか。腐っても男優って事なのかな。ただやるだけじゃなくて、ちゃんとそれなりの演技をしていたっていう。
 ……それはどうかなぁ。私は彼の「野生」もよく知ってるから言えるけど、あれもあれで「地」だと思う。
「それにしても思い切ったわね。亜人デビューでいきなり「王子」を相手になんて。あなたから指名したんだって?」
 王子というのは、男優のミノタウロスの事。彼をよく知る人達はみんな、彼を王子って呼んでるわ。その王子を亜人デビュー作に選んだ理由を、私は尋ねてみた。
 こっちの世界……人外が出演するAV業界で人間の女優がデビューをする時は、普通ならもっと人間に近い種族……ウェアドッグやウェアウルフあたりを相手にするが定番。そんな相手になれてきてから、王子のような規格外な亜人や、生理的な嫌悪感を伴いやすいローパーやスライムを相手にしていくもの。だからいきなり王子を相手にする、しかも彼女から指名したなんて……ちょっと信じがたいのよね。
「はい……実はその、ミノタウロスさんに、えっと……」
 あらら、顔を真っ赤にして俯いちゃった。
 なんでも……彼女、もう人間サイズじゃ満足できないんですって。そもそもAV嬢になったのも、そんな理由からだったらしい。だからあっちのAVでは極太バイブを扱うような作品が元々多かったんだとか。
 この若さでねぇ……まあ、プロフィールの年齢と実年齢には「サバ」が何匹か紛れてるとは思うけど。
 そんな彼女に、こっちの世界でやらないかってスカウトがあったらしい。その際に見せられたのが王子の出演作品。それを見て、こっちの世界に足を踏み入れることを決意したとか。つまり彼女にとって、王子は憧れの男優だったらしい。なんていうか……まあ、人それぞれよね、うん。
 ちなみに、最初王子のアレを見て怯えていたのは……画面で見る以上に実物は大きく見えて、流石の彼女もちょっと「引いた」らしい。まあすぐアレの大きさに「惹いた」みたいだったけど。
「まあなんにしても……色々と、大丈夫みたいね」
 身体的な意味でも、仕事的な意味でも。
 むしろ……大丈夫じゃないのは王子の方かな、たぶん。ふふ、もうそわそわしてるわ……仕方ないわね。彼女のフォローは他のスタッフに任せて、私は彼のフォローに入りますか。そもそも、私は彼のサポートもあるから現場へ来ていたわけだしね。

「もうちょっと我慢できなかったの?」
「だってよぉ……相手は今日のがデビュー作だっていうからさ。いつも以上に「加減」してたから、こっちはほとんど満足出来てないんだよ」
 現場からそそくさと抜け出した私達は、すぐ近くにある馴染みの店……人外専門のラブホテルへと駆け込んだ。
 王子は相手のAV嬢によっては、どうしてもフラストレーションがたまってしまう場合がある。特に今回のような「本気」で相手が出来ないような娘の場合は。
 彼が本気になると、激しすぎて相手の娘が文字通り壊れてしまう事がある。だから相手を気遣いながらやらなければならず、それがフラストレーションになるってわけ。
 そりゃ生理現象だから、それなりに「擦れ」ば、出るものは出る。でもそれだけで満足できてしまうほど、彼の性欲は大人しくない。むしろ中途半端に終わって困るらしい。それを鎮めるために、私は事前に呼ばれていたって訳。
 もっとも、あのAV嬢の娘のケアも監督から頼まれていたんだけど……そっちは本業じゃないからね。
「今日は特に落ち尽きなかったわね」
 私はゆっくりと、服を脱ぎながら彼に尋ねる。ブラウスを無造作にベッドの上へ置き、タイトスカートに手を掛けたところで。私は不意にバランスを崩された。
「ちょ、ん、もう……本当にらしくないわね……ん、クチュ、チュ……」
 強引に引き寄せられ、王子の舌が私の首と顔を嘗め回す。呆れながらも、私は彼の舌を受け入れる為に口を開いた。待ってましたと、彼の大きな口が開き舌が口内へと侵入してくる。肉厚な舌が口内を圧迫し、上あごの粘膜を舐め始めた。
 私は彼の舌を含みながら、脱がし掛けたスカートに手を掛けスルリと床にそれを落とす。そして下着に手を掛けながら、彼の舌を私の舌でチロチロと弄び、唇で優しく舌を圧迫する。全裸になった頃には、私は足を浮かせ彼に抱きかかえられながらディープスロートキスを続けていた。
「グチュ、チュ、チュパ……ん、ふぐ、んあ……ふぅ。ふふ、久しぶりじゃない? こんな「獣」みたいに……んっ! せっ、背中はちょっ、ひっ!」
 私を自分に押しつけるようにして腰を抱きしめ、彼はその姿勢のまま私の背中を嘗め回す。仕事では絶対にやらない愛撫。モニター越しに見ている第三者が興奮できるスタイルじゃないから。でも彼は時々こんな愛撫を私にはする。胸同様、背中も鍛えれば性感帯になるのを知っているから。そして私は全身を鍛えられている女だから、こんな愛撫に悦べるって彼は良く知っている。
 もちろん、私を悦ばせるためだけにこんな愛撫をしている訳じゃない。
「ん、チュ、クチュ……はむ、ん、チロ、チュ……」
 私は彼の首に腕を回し彼に抱きかかえられながら、彼の喉元や鎖骨に愛撫し始める。舌で舐め、唇を当て吸い、たまに歯を立てて軽く咬んだり。
 なにかする度に彼がピクリと反応するのを可愛いなんて思ったら、今度はツツッと彼の舌が背骨の上を通って私がピクリと反応してしまったり。
 何度も身体を重ねたから知り尽くしている、互いの身体。こう言うと……恋人同士みたいだけど、そんな関係じゃないのよね。セックスフレンドであって、ビジネスパートナーでもあって……なんだろう、恋人以上、恋人未満。そんな矛盾した間柄かしらね。
「ね、そろそろ……」
 強引に始めた癖に、丁寧な愛撫。すっかり私の方は準備が整っていた。もちろん、彼のは言うまでもない。
「このまま入れて……ん、くぅ!」
 俗に言う、駅弁。彼は私の腰を掴んだまま、ガチガチに固くそそり起たせた自分の男根に私の淫唇を触れさせ、そして一気に奥へと……まさに突き刺すように押し入れる。
 そこからは、本当に獣。
 私をオナホールかダッチワイフにでも思っているのかってくらい、激しく腰を振り腕を振るい、激しく攻め立てる。声も出せないくらい身体を揺さぶられながら、でもジュブジュブと膣は声の代わりに喘ぎ出す。
 性経験豊富なAV嬢だって、こんな事されたら壊れるわ。でも私は平気。いえ、むしろこれくらい激しい方が好き。互いに、相性が良いのよね。セックスの。つまりこーいう意味においても、私達はベストパートナーなわけなの。
「やはり……お前は、いい、女、だな!」
「なに、よ、こん、な、ぐ、ん、くぅ!」
 喘ぐのだって苦しいのに、何を言わせたいのよ……もう。ちょっと感じちゃうじゃない、そんなこと言われたら。
 ちょっとした言葉のやり取りをしたけれど、後は獣同士の性交。荒げる息と結合部の喘ぎだけが室内に木霊する、本当に「やるだけ」のセックス。それもかなり激しい。
 愛なんて語らない、ただ快楽だけを追い求める二人。
 それでも、ただ乱暴なだけじゃない。獣同士の性交だからこそ、信頼し合えないと成り立たない。
私が彼を信頼しきってなければ、こんな激しい行為に身を全て任せられないし、彼も私が簡単に壊れないことに安心しつつも、やり過ぎて私を壊さないように気を配りながら腰を振るっている。信頼しきっているから出来る。そしてそんな関係だから、より快楽が身を震わせる。
「出すぞ」
 確認を求められても、私は返事が出来ない。私ももう、絶頂手前だから。
 腰が唐突に止まる。なのに膣は更なる圧迫感を内側から受ける。その圧迫が僅かに緩んだとたん、私の奥に勢いよく射出される白濁液。激しい水圧を子宮に浴びる快感を、私は身を反らして受け止め……全身をビクビクと痙攣させギュッと膣を締め付けた。
「ふぅ」
 大きく息を吐き出し、彼は私の中に入れたままベッドに歩み寄る。そしてゆっくりと私を持ち上げ彼の男根を引き抜くと、先ほどまでの猛牛ぶりが嘘だったみたいに、そっと私を優しくベッドに横たえさせる。
「よ……っと」
 そして私の側に腰掛け、私は……揺れるベッドに軽く身体を宙に浮かせられた。
「どこか抜けてるのよね、いつも」
「ん? なにがだ?」
 基本優しいんだけどね、彼は。でもちょっとデリカシーがないかな。まあ、そんな彼だから気に入ってるんだけど。

 一度きりで収まるほど、私達の性欲は浅くない。
 でも、最初に激しく抱き合った後は、ゆったりと、身体を絡ませるように求め合うのが常。それこそ恋人同士がするような、イチャイチャした愛撫を繰り返す。
 私が彼の男根を全身で奉仕したり、彼が私のアナルに指一本だけ入れて弄んだり。
 そんな事をしながら、ピロートークに花を咲かせている。
「人気が出るかは……今のままだと微妙だな」
 騎乗位で私を自分の上に腰掛けさせながら、彼が私の問いに答える。今日相手にした娘が、今後この業界で大成するかどうかを。
「どうも彼女は、自分が感じてさえいれば男が悦ぶって思ってるようだからなぁ……ま、最初の内はそれでもいいが、このままなら飽きられるのも早いぞ」
 彼の見解に、私は同意見だ。直接相手をした彼だけでなく、端から見ていた私でも同じ事を思ったんだから、それをモニター越しで見ている視聴者にも伝わってしまうだろう。まだ今は初々しさが出ているから良いけれど、慣れてきてからもこのままじゃ、確かに飽きられる。
 さて、どう指導してあげれば良いかな……私は彼に跨り腰をグラインドさせながら思案した。
「ローパーでも相手させたらどうだ? この前、一匹仕上がりそうだって言ってたろ」
 軽く腰を跳ねながら、彼が提案してきた。ローパーね……そうね、私の「本業」もかねて、それも良いかも。
 AV嬢や風俗嬢の指導は、あくまで私の副業。本業はローパーやスライムといった魔法生物の調教師。彼が言うとおり、ちょうど活きの良いローパーの調教が終わったところだから、あの子をAVデビューに今日の娘を起用しても良いかな。ローパーを相手にしながらも、よがる姿を「魅せる」という意識を持てるようになればいいんだけれど。
「でも王子、まだあの娘とのシーンって残ってるんでしょ?」
 私は腰を跳ねさせながらスケジュールの確認を取る。
 ローパーの相手も良いけど、出来れば彼が直接指導してあげられるならその方が良い。なにせ彼は人気男優。数多の女性をカメラの前で抱いて、彼女達の魅力を引き立たせるプロだから。
 まあカメラの前だけじゃないけど……彼には私以外にも、多くのセフレがいるから。迷宮のハーレム王子は伊達じゃないのよ。ただ彼が本気になれる相手はごく僅かだけど。
「いや、あの娘の撮影はまだあるが、俺との絡みはもうない。明日はケンタウロスの男優とだとさ」
 彼は私の腰に軽く手を添えながら、続けて提案を口にする。
「なんだったら、監督に口をきいてやろうか? こっち世界のデビュー作だからいろんな相手とのシーンが欲しいって言ってたし」
「ホント? なら、ん! お願い、出来るかな?」
 自分の胸を揉みながら、私は彼に感謝する。
 彼はまかせとけと、快諾してくれた。持ちつ持たれつ、何事においても頼りになるパートナーだ。
「ついでにお願い……いいかな」
 ギシギシとベッドをきしませながら、私は尋ねた。
「そろそろ……いい?」
「ああ、俺ももう我慢できねぇよ」
 私の腰を持ったまま、彼がベッドから立ち上がる。そして最初の時同様、激しく私を揺さぶり腰を動かし始めた。
 これが私達の締め。最後も激しく求め合って終わるのがいつものパターン。
「やっ、ぱ、り、ん、お、おうじは、い、いい、ん、くぁあ!」
 いい男よね。そう言い切れぬまま、私は暴れ牛の腰使いに言葉を封じられる。ま、今更言うことでもないけどね。
 股を裂かれるような快楽を全身で受け止めながら、私は幸福に浸っていた。

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