激しい雨の中、突然飛び出してきた車にひかれた……私の死因は、その交通事故なのだと教えられた。信じがたい話だけれども……信じるしかないようだ。なぜならば、私はその死因よりも信じがたい状況に陥っているのだから……。
「ゴメンナサイね、他に良い身体が無くって」
姿見を見せて貰った。映し出されていた私は、少女の姿をしていた。それも、私が小さかった頃とは全く違う姿。つまり、完全な他人がそこにいる。慌てて自分の手をじっと見る。その手はとても小さく、以前の私の手ではないのは明らか。
以前の私？ そういえば、私は私自身の記憶が曖昧だ。事故のこともそうだけど、私は自分が誰なのか、思い出せない。ただこの姿が以前の私とは全く異なっているという事実だけは、記憶というより「違和感」で感じ取れた。
「あなたは自縛霊になりかけていたの。だから肝心な記憶は肉体と共に昇天してしまったのよ」
私を助け出してくれた女性……魔女だと名乗っていたが……彼女は私に、こう説明した。オカルトの類を信じたことはこれまでなかったと思うが、今の私を説明するには、そのオカルトを信じるしか他にないように思えた。むしろ、他にどんな可能性が考えられるのか……もう私には、何が何だか……。
「さて……助けてあげたのは良いけど、どうしましょうか」
それは……こちらが訊きたい。私はどうすればいいの？ どうなってしまうの？
「今のままだと不安定だから、成仏して貰うにしてもあまり時間は掛けられないわねぇ」
成仏？ 私……また死ぬの？ そんな……私を助けてくれたんじゃなかったの？ 私……いや、死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない……。
「とりあえず、こーいう事は専門家に相談するのが一番ね。これからど……ちょっ、ねえ待って！」
魔女が私を捕まえようと手を伸ばしてきたのを、私はとっさに払いのけた。このままでは、殺される！ 私は魔女の制止も聞かず、外へと飛び出していった。
結局、私は死ぬ運命にあるのかもしれない。
外へ飛び出したのは良いけれど、そこは深い森の中だった。出口を探し、街を求め、私は闇雲に逃げまどった。その結果は……冷静になればこんな無謀な行為の果てに行き着く先は想像できる。
私は、遭難していた。
思うように動かない身体。しかも子供の身長と体力では、様々なことに限界がある。疲れ果てた私は、近くにあった大木にもたれるよう座り込んでしまった。
どうしてこんな事になってしまったのだろうか……そもそも、これは本当に現実なのだろうか？ 夢？ これは全て夢だと、そう思いたい。そうよ、あんな女の言うことより、その方が説明がつく。そう、これは夢。夢なんだ……そうだったら、どれだけ良かったか。疲労感と地べたの冷たさ、そして背中に感じる大木のゴツゴツした感触が、私に夢でないことを思い知らせる。
どうなってしまうのだろう、これから。ふと、空を見上げる。うっそうとした木々の葉が空を覆い尽くしているが、僅かな隙間からこぼれ日が指している。まだ昼時のようだけど……夜になったら、もう助からないかな。結局、私は死ぬしかないのかな……大きな溜息を吐き出しながら、私は視線を地面に移した。すると落とした視界の中に、妙な「ツタ」が入ってきた。
そう、文字通り入ってきた。そのツタは、動いている！
「ちょっ！」
思わず声を上げた。ツタは驚き立ち上がった私の足に、絡みついてくる。足を振り回し手で払おうにも、ツタはまるで蛇のように私の足に巻き付いて離れない。それどころか、ツタは巻き付きながらとうとう胴にまでたどり着き、ガッチリと私を捕らえてしまう。
ぐっと、ツタが私を引く。転倒しそうになった私は大木にしがみつこうとしたが、子供の小さな腕では捕まる事なんて出来ない。そのまま私は、ツタに倒されてしまった。
「いやっ、いやぁ！」
倒れた私に、どこから伸びてきたのか……無数のツタが襲いかかってくる。自由だった片足にもツタが絡み、両手は頭上で縛られた。唯一自由になっている首を激しく振りながら、私はただ叫ぶことしかできない。
ズルリと、ツタの一本が首元から服の中へと進入してくる。
「ちょっ……なに！」
このツタ、他とは違う……なにか、ぬるっとした感触がある。その生々しい感触に私は全身を振るわせた。気色悪い。とても気色悪い。悪寒が駆け抜ける私の身体に構わず、このツタはぬめぬめと服の中でうごめいた。
「ん……いや、なに……んっ！」
あろう事か、滑ったツタはその先を私の敏感な部分……乳首に当てつけ、突くようにその上を前後する。膨らみもない少女の胸なのに、私の乳首は敏感にその感触に反応し……大きく突起したのが自分でも判る。
「いや、やめて、こんな……んんっ！」
まるで人の指で愛撫されているような……むしろぬめりがある分、人の指よりも滑らかで……どうしゃったの？ 私……感じてる。
「はあ、んっ……いや、なんで……あっ！」
気付けば、もう片側の乳首にも刺激が。別のツタが今度はお腹の方から進入していた。未発育な少女の身体は、しかし乳首だけは成人女性のそれよりも感度が良い。
「ハァ、ハァ……んっ、い、いやぁ……あっ！ ん、そこ……ダメ、ダメ、なのに……くぁあ！」
私の声は、もう悲鳴ではなかった。そんな声を上げている自分に驚きつつ、一方で頬を赤らめている自分にも気付く。
「えっ！ んっ、んはぁあ！」
滑るツタは二本だけではなかった。後から後から、無数のツタが服の中へと進入し、蠢いているいる。もはや乳頭はツタの先で転がされるだけに飽きたらず、無数のツタがスポーツブラのように胸の周囲に巻き付いている状態へ。その上で、ウゾウゾと激しく、グチュグチュと音を立てながら私を刺激する。
「いや……あ、あっ！ んっ……はぁあ！」
胸にばかり気を取られていた私は、いつの間にか脚をＭの字に開脚させられているのにすぐ気づけなかった。腰まで絡まっていたツタはほどけており、替わりに滑ったツタが太ももをグチュリと音を立てながらゆっくりと、絡みつきながら登ってくる。
「やめ……だ……んっ、ハァ……あぁあ！」
こそばゆい、柔らかでいながら重く滑る感触が太ももに広がっていく。異性に撫でられるような不快感と、それとは反する……快感が、太ももから背筋へ、そして全身へと、電気が走るかのように伝わってくる。
ツタが向かう先は、もう予測がついている。ダメ、このままでは私……あのツタが私に到達してしまったら私は……。
「いや……じらさ……んっ、いやぁ……」
私は……今何を？ 迫るツタに、私は何を……期待しているの？
クチュ……小さく湿った音が、ツタが「そこ」まで来たことを私に告げる。ほんの僅かな音なのに……グチャグチャと動き回るツタの音より小さかったのに、私はその音を聞き逃さなかった。ツタの滑りではない、私の滑り……淫唇がトロトロに溶けている証を奏でた音を。
「き……きて、ねぇ、きて！ もう、がまんできないのぉお！」
叫んでいた。私は……ツタに弄ばれながら、その快楽を愉しんでいる。私は人を襲う奇っ怪なツタを、待ちこがれている。
「いあぁあ！ きっ……た、んっ！」
これまでの動きが本当に「焦らしていただけ」と実感させられる。ツタは一気に私の膣へ、ズニュと大きな音を立て進入してきた。
私の身体は……処女だったのだろうか？ ただ少なくとも、痛みは全くない。膣を内側から強く強く圧迫する感触はあるが、それはもはや、快楽でしかない。そして膣の内膜は、圧迫と共に摩擦を感じ始める。
「いい、これ……きも、きもち……ん、ふあぁあ！ いぎっ、ん、きつ……でも、い、いあ、ん……ハァ、ん……ぐっ、う、はぁあ！」
太ももをギュッと締め付けながら、ツタは激しく私の中で動いた。グチャグチャと、ツタと私の滑りが混ざり合い、汚らしくもいやらしい、そして素敵なハーモニーを奏でている。聞くだけで背筋が震え、気持ちを高ぶらせてくれる素敵な音楽。
「い、そ、そこ……ん、おし、おしりぃ！ はい、はい゛って……いぎっ！ きつ……いや、い……はぁあ！」
もう一本のツタが、今度は私の菊座を押し広げ進入を果たした。生前の私にこんな経験があったかはもう思い出せないけど……この感触はたぶん始めてて、そして不快……だと、少し前の私ならそう感じていたはず。
「おし、おし、いい、まえも、もっと……うごい゛っ！ んっ、はげ、きも、ん……あぁあ！」
小さな身体には無理がある。それほど二本のツタが内側から掛けてくる圧力は強い。しかしだからこそ、とても、とても気持ちが良い。
「い、いぐ、わたし……いく、いっ……い、い、いっ……いっ、いっくあぁああ！」
気付けば私はツタに支えられ、宙に浮いている。浮かされながら、私は小刻みに身体を震わせ快楽の大波に酔いしれる。
「ハァ、ハァ……ん、あっ！ ま、まだ……ん、いい、もっと、わたし、も……んっ！」
私はひとまずの満足を得た。しかしツタは……植物に感情があるのかどうか判らないけど……満足はしていない様子。先ほどと変わらぬ激しさで、私という蜜坪をグチュグチュと引っかき回す。
「いい、わ、ん、ひぐぅ！ ん、ふあぁあ！ ん、んん！ ごほっ、んっ！ グチュ……クチュ」
突然、私の口の中にツタが一本、入り込んできた。突然のことに咽せる私に構わず、ツタはまた強引に押し込んでくる。植物独特の、妙な苦みが口の中に広がっていく。
「んっ、グチュ……クチュ、ん、クチャ、クチュ、チュ、チュク、ヂュク、クチャ……ん、グチュ」
激しく出入りするツタ。三つの穴に区別無く、ツタはただひたすらに私を責め立てる。口の中は苦みで舌が麻痺し始めたのか、次第に苦しさはなくなっていった。それどころか、その苦みすら甘美に……甘くとろける味に思えてくる。ああ、意識が痺れる。身体はとうに快楽の痺れを受け続け痙攣し続けているけれど、意識までが痺れ、もう考えがまとまらない……ただ、ただ快楽だけが、私の意識。全てになっている。
クチュクチュと愛撫を続け、グチュグチュと互いの滑りを絡ませ、グチャグチャと私の中をかき回す。
ああ、ステキ……私はただただ、この快楽に身をゆだねる。それしか出来ないし、それが全てで構わない。
いい、ああ、きて、もっと、グチャグチャにして、かきまわして、もっと、しめつけて……きもちいいの、もっと、もっと、ほしい、ほしいの、もっと、きもちいいこと、もっと、もっと、ああ、きもちいい、いい、いく、いくの、わたし、いく、いく、いく、いく、いく、いくいっ……く……
「気がついた？」
幸福の時は、いつの間にか終わりを告げていた。目を開けた私が見たのは、心配そうにこちらを見下ろしている魔女の姿だった。
「ゴメンナサイね……あなたを脅かすつもりじゃなかったの」
魔女は私が逃げ出したことを責めることなく、逆に私を怖がらせてしまったと謝罪してきた。その上で、彼女は私の身体について話し始めた。
「その身体はね、元々私達が作ったローパー……ええっと、あなたを襲ったあのツタのような触手ね、あれの為に製造したホムンクルスなの」
彼女が言うには、私が……私の魂が宿らせて貰っているこの身体は、ローパーとの性交を愉しむための「操り人形」であり、そして……「苗床」なのだと言い出した。そもそもこの身体は魂をではなく「意識」を移して操るように作られているらしく、私のような魂を入れる予定はなかったのだとか。加えて、この身体は「めしべ」になっていて、ローパーの「おしべ」を兼用した触手から放たれる花粉……実際には液体になっているらしいけど……それを受粉というか、受精するように出来ているらしい。
「この森には人が入ってこられないように結界がしいてあるの。だから「あの子」を放し飼いにしてたんだけど……こんなことになるなんて思っても見なかったわ。本当にごめんなさい」
森を彷徨っていた私を、彼女より先にローパーが見つけ、私を襲った。彼女が私を見つけたときには、もう私は意識を失っていたらしい。当然、私が「いった」時には……。
「……ええ、受精は終わっていたわ。まだ実験段階だから、ちゃんと受精されているか判らないけど……今あなたのお腹には、ローパーの赤ちゃんが宿り始めているはず」
そうなんだ……私はお腹をさすりながら、小さな身体で母になったことを告げられた。一度死んだ私に、生命が宿ろうとしているなんて……そうだ！ 私、死んでこの身体に移って……
「あの……私は、どうなるんでしょうか……」
おそるおそる尋ねてみた。彼女は軽く溜息をつき、眉間にしわを寄せた。困っている様子なのは見て取れるけど、でも私は……生きたい。一度死んだ身だとしても、私は生きたい。この子のためにも……。
「大丈夫よ。成仏してとか、もう言わないから。というか、もう無理なのよね」
本来は仮で宿った身体。しかしローパーとの性交と、私……自縛霊のもつ「生きたい」という執着が、魂と身体を完全に結びつけてしまったと、彼女は説明してくれた。
「半ばネクロマンサーみたいな呪方よね……んー、こりゃアイツとか色々、怒るだろうなぁ」
でも心配はいらないと、彼女は私の頭を撫でながら微笑んでくれた。彼女にとって色々困ることになってはいるようだけど……私は申し訳ないと思いつつ、生きていられる事へ胸をなで下ろした。
「でも……ホントにいいの？ あなたはその……「バケモノ」になっちゃったわけで……」
生前は人間だった私は、ホムンクルスとして、ローパーの「妻」として、「母」として、生き返った。他の人からは気味悪がられるだろう。それは自覚しているけど……。
「生きていられるだけで幸せなのに……私、こんなに気持ち良くて幸せなのに、後悔なんて……」
先ほどまで感じていた、「夫」との営み。そしてお腹をさすり感じる「我が子」の存在。こんな幸せ、人間でいたら味わえないもの。だったらバケモノって呼ばれても後悔なんかしない。
「そう……ま、あなたがそういってくれるなら、問題ないわ。まあちょっと、こわーい人の所とかに行って、事情を聞かれたりするかもしれないけど……」
どれほど怖いのか判らないけど……この幸せを手に入れられるならなんだってするわ。
記憶の無くなった生前に未練はない。私はこの小さな身体で、これからもっと幸せになるのだから。