掘り出し物〜雪女〜

 今冬は日本全国的に大雪。
 私ら雪女にしてみれば、絶好の年……と思われがちだけど、現実はそう簡単じゃないわね。
 雪が多くなればそれだけ人間ってのは警戒心を強めるもので、そうそう雪山に迷い込んだりしない。
 それに山に行くどころか雪下ろしでそんな暇はないときた。
 まあ、それ以前に昔と違って色々と「設備」が整っているぶん、遭難者なんか頻発するもんじゃなくなった。
 おかげでこっちは、色々不都合が多くなってきた。
 雪女にも色々いて、地方や個人で「栄養摂取」の方法が異なるけど、私は昔ながらの……そう、男から「精」をありったけ搾り取って生きている。
 なのに、なのにだよ。
 誘惑すべき遭難者が激減しちゃ、こっちの命に関わるってものよ。
 そんな状況が続いてか、仲間の中には精を求めて街へ下山する奴まで現れ始めた。
 餌を求めて街に現れる猿じゃあるまいし。よくそんな恥知らずなことが出来るもんだよ。
 そのうえ、色々上手いことやってなんだか幸せに暮らしてる奴までいると聞く。
 羨ましいったら……ええい、恥知らずもいいとこよ! ホントに。
 とはいえ、このままでは本当に飢えてしまう。状況は非常に悪い方にしか流れていかない……なんて、色々悩んでいたところだったんだけどさ。
 捨てる神あれば拾う神ありって言うのかね? もちろん、私は神なんて信じちゃいないけどさ。
 この大雪の中で、わざわざ山に入ってきたバカがいた。
 今私の目の前に寝転がっているのが、今冬初の……いえ、ここ数年ぶりの遭難者。
 いかにも山男って風体の……おそらく地元の者だね。
 なるほど。地元民だからむしろ楽観的に山へ入ったのかしら? 自分ならどうにかなると思った……ってとこね。
 確かに見たところ、筋力体力は申し分ないと思えるガッチリした体型だわ。
 いいわね、いかにも精力絶倫って感じで……あらいけない。思わずよだれが……。
「……んっ……」
 男が気付き始めた。さて、いよいよ待望の食事時。私はよだれを拭き、男が目を覚ますのを待った。
「ここは……」
 男の彷徨った視線が、私の視線と重なる。
 そして男はそのまま、視線を外そうとしない。外せない。
 驚愕し見開いたまぶたは、やがて雪解けのように力を緩めていく。
 私の虜となった瞬間。それを確信し私は口元を僅かにつり上げる。
「あっ、あんたがオラを助けてくれただか……」
 助けた? さあ、それはどうかしらね。
 なにせあなたは、この後最後の一滴まで精を搾り取られるのだから。
 そうなれば、待っているのは……ここに来る直前と同じ事。
 私は黙ったまま、そっと男の頬に手を当てた。
 男は再びまぶたを見開いた。あまりに冷たい私の手に驚いたのだろう。
 私は構わず、もう片方の手を空いた頬に当てる。
 そして軽く男の顔を持ち上げ、ゆっくりと、私の方から顔を近づける。
「んっ……」
 軽く触れる唇。そして次はもっと長く触れる。三度目は舌を入れる。
 突然のことに戸惑っていた男は、ただされるがままに舌を突き入れられる。
「くちゅ……んっ、ちゅ……くちゃ、んふっ、んっ……」
 積極的に男の口内で蠢く私の舌。次第に男も私の求めに応じるかのように舌を絡ませ始めた。
 僅かに互いの唇の隙間から白い息を漏らしながら、冷たい舌がなま暖かい舌に絡みついていく。
「あっ、あの……」
 唇を放し立ち上がる私。男は手を突いて半身を起こしたまま私を見上げ戸惑っている。
 何故こんな事を? 男は表情で私に訴えかけている。
「こんな寒い夜ですもの。暖め合いましょう?」
 むろん、本気で暖まるつもりなど無い。むしろ男は更に体を冷やしていく事になるだろう。
 私は男を見つめたまま、帯をほどき、はらりと白い着物を脱ぎ落とした。
 露わになる、私の肌。着物よりも白いその肌を、男は食い入るように見つめている。
 いいわ、その視線。私に魅了された男の視線が、私の心を冷ややかに熱くさせていく。
 私はゆっくりと男にしなだれかかる。
 微動だにしない男。それでも何か話さなければと思っているのか、僅かに唇だけが動こうとしている。
 私はその唇に、人差し指を当てた。
 そして微笑む。
 これだけで充分だ。
 私は男の唇をくわえるように己の唇を軽く覆い被せ、そして舌をまた入れていく。
 右手は男の後頭部をしっかりと支え、
 左手は胸板から滑るようになぞるように腹、腰、そして股へと。
 服の上から優しく撫でる。それだけで、男の「もの」の大きさが解る。
 大きい。もしかしたら、今まで私が「食べた」男達の中では一番かも。
 久しぶりの食事というだけでも私は興奮気味だというのに、こんな大きいものなんて……
 私の口から溢れる唾液は、舌を絡めているだけが原因ではなさそうだ。
 しかし焦ることはない。むしろゆっくりと、味わおうじゃないの。
 私は軽く男の逸物を服の上から撫でている。それだけで男のこれは、ビクビクと反応を示している。
 服の上からでも伝わる、冷たい感触。それが男の肉棒を熱くさせていた。
 私は慣れた手つきで、左手だけでベルトのバックルを外し、そしてゆっくりとズボンを下ろしていく。
 飛び跳ねるように、男の肉棒が露出し直立する。
 私はその大きな肉棒を手でしっかりと握る。
 冷たい感触に縮み込む男もいるが、この男は違った。
 まるで私の手を溶かさんばかりに熱く熱くいきり立っている。
 むしろ私の冷たさが良い刺激となり、更なる熱を帯びているかのよう。
 握った手を、私はゆっくりと上下にしごき始めた。
 ビクビクと脈打ち反応を示す肉棒。
 たまらない。こんなに大きな物がいただけるなんて……
 私は顔を放し、男のためではなく、内から沸き上がる喜びに耐えきれず微笑んだ。
 そして私は微笑みの絶えないその顔を男から背け、後方へと向ける。
 眼前には、改めて直視するそそり立つ肉棒。
 たまらず、私はその肉棒にかぶりついた。
「んっ、んっ、んちゅ、ちゅっ……」
 口に入りきらない肉棒を、私は出来る限り奥まで味わおうと、喉にこすりつけるようなディープスロートで攻め立てる。
 夢中になって気付かなかったが、私は男をまたぎ体を完全に入れ替えていた。
 それはつまり、男の顔に自分の陰門を押し当てる格好。
 男は私が何も言わずとも、その陰門、その上にある小さなアイスキャンディ、そして陰門よりあふれ出るフローズンカクテルを舐め始めた。
「んっ!」
 思わず、私は喉にまで届かせている肉棒でむせそうになる。
 上手い。この男、野暮ったい風体に似合わず女になれている。
 突くように、突き入れるように、撫でるように、押しつけるように。
 舌の強弱を使い分け、アクセントとポイントを外さない舌技。
 そしてさりげなく使い始めた指。
 尻を軽く揉み、そしてそっと菊門へと忍び寄る。軽く尻を広げ、そして焦らすように触れてくる。
 おそらく、私が菊門をいじられることに悦ぶか嫌悪するか反応を確かめているのだろう。
 私は吸い込みながら肉棒を激しく口内へ出し入れし、その答えとした。
 男は答えを受け取ったのだろう。陰門に迫る舌と菊門に迫る指が激しさを増してきた。
 これはとても良い拾い物をした。ここまでの男、街に降りたってそうお目にかかれるものではない。
 普通なら3度、多くて5度も出せば果ててしまう男ばかりの中、
 この男なら7度は楽しませてくれそうだ。
 その間に私も3度は行けそう。
 ああ、そうなるとこのまま口に出させてしまうのも良いか。
 既に1度くらいは出していてもおかしくない程に攻めていながら、まだ太く長くなる男の逸物。
 流石に顎が疲れてきた。私は両手で激しく擦りながら、先端を舌で攻める手法に切り替えた。
 尿道を舌先で突くと、さしもの大男も声を上げる。
 しかし次にはピチャピチャといやらしい音が響き、今度は私が声を上げそうになる。
 そんな攻防をしばし続けていたが、二人とも限界が近づいてきた。
「出そう? いいわ、このまま出して下さいな」
 丁寧な口調で余裕を見せようとしているが、おそらく余裕がないことを男は陰門の震えで察しているだろう。
 しかし男も、私の手の中で脈を速めている。
「ほっ、ほら、出しちゃいなさい! ほら、ほらっ! んっ! あっ……はあぁ……」
 まるで間欠泉のように、勢いよく飛び出される白濁液。
 私は肉棒を引き寄せ、顔全体に浴びせていく。
 男はそして、やはり顔に大量のフローズンカクテルを浴びていた。
「はぁ……ふふふ、沢山出ましたわね」
 濃厚で大量の白濁液。口に残る粘りけの強さから、この男もまた私同様「ご無沙汰」だった様子。
 なにより、衰えを知らないのがその証拠。
 多少小さく柔らかくなったとはいえ、それは先ほどまでの大きさから比べての話。
 ものの数秒もあればすぐに元の堅さを取り戻すだろう。
「さあ、次はこちらにおいで下さいませ……」
 私は向き直りまたぎ直し、膝で立ちながら指で陰門を開いて男に見せつけた。
 するとどうだろうか。やはり肉棒はすぐさま硬く力強く直立する。
 片手で陰門を開いたまま、私は片手で肉棒を掴み、両手を近づけていく。
「んっ……はあぁっ!」
 久しぶりということもあってか……いや、それ以上にあまりの大きさに悦びの悲鳴を抑えることが出来なかった私。
「いい……こんなに、大きいだなんて……ん、中から、溶かされそう……」
 熱く熱くいきり立つ男の肉棒は、氷点下という冷たさを持つ私の膣の中においても、衰えることはなかった。むしろより熱さを増していく。
 私は夢中で腰を振っていた。むしろ熱さが心地良いくらい。
 それは男も同じなのだろうか? 冷たい膣が刺激になり、興奮させているのだろう。下から激しく腰を打ち付けてくる。
「きもっ、気持ち、いい、わ……こんなの、初めて……ん、もっと、はぁ、んっ!」
 男の手を掴み、私の胸へと導く。
 男が私の胸を鷲掴み、私はその手に自分の手を重ねる。
 腰も胸も、より激しさを増していく。
 摩擦や男の体温。あるいは情事に向ける情熱か。
 溶かされそうな熱気に、私は心地よさすら感じていた。
 こんな男、初めて。
「い、もう、もう……んっ! あはぁ……はうっ! んっ、も、いっ、いく、いっちゃう……」
 相手を3度逝かせても、私が逝けるのは1度くらい。良くて2度。それなのに、もう2度目に達しようとするなんて。
 この男、惜しい。このまま全て搾り取るにはあまりに惜しい。
 しかし残して置くわけにもいかないだろう。
 私が止まらないだろうから。全てを絞り尽くすまで。
「あっ、はあっ! んっ、いき、いき、そう? あなたも、いって、ね、いっしょ、いっしょ、に、んっ!」
 後のことは良い。私は今を、この悦楽を、頂点まで登り詰めることしか今は考えられない。
「いく、いく、いく、いく、いっ……んっ、ああぁ!」
 ピタリと、二人腰の動きが止まる。
 代わりに、二人は全身をビクビクと痙攣させていた。
 冷たい膣の中には、熱い白濁液が大量に流れ込んでいた。
 私は倒れるように、男の上に覆い被さった。
 そしてしばし余韻を愉しむ。
 が、繋がったままの二人は、少しずつ、少しずつ、うねるように動き始める。
「まだ……まだですわ。今宵はこのまま、二人溶け合いましょうぞ……」
 唇を重ね、舌を絡め、腰は動き、そして音を立てる。
 至福の時はどれだけ残されているだろうか。
 それを考えるよりも、私はただこの男をむしゃぶりつくす事だけが全てを支配していった。

「んっ、もう……もう……」
 なんということだろう。
 こんな事、信じられない。信じられるはずがない。
 しかし現実はこうして、状況を生み出している。
「ゆっ、ゆるして……もう、腰が……」
 動かない。もう自ら動く力は残っていなかった。
 力無く寝そべる私に、男は私の両足を軽々と持ち上げながら腰を振り続けていた。
 こんな事があり得るのか?
 男の精を吸い尽くす私が、吸い尽くせぬとは。
 流石に男も疲れが見えてはいるが、それでも私に比べれば元気なもの。
 何より、私の膣で大きくなっている肉棒はそのありあまる精力を象徴している。
 男はあれから3度は逝った。しかし私は、その3倍は逝かされた。
 出す度に逝きづらく長持ちするのは解るが、それにしてもこの男は……あまりにもタフだ。
 一言で言うなら、そう、「絶倫」というものだろうか。
「おねがい……なんでも、なんでもするから……ゆるして……」
 ついに私の方から許しを請うてしまった。
 このままでは、暴飲暴食。精を食い尽くしすぎてお腹を壊すようなもの。身体がどうにかなってしまう。
 原因は解っている。長時間交わい続けたことによって帯びた熱。
 人肌程度ならさして問題にはならないはずだが、長時間火照った身体と肌を重ね続ければ、徐々に私の 体力、つまり冷気も奪われてしまう。
 なかなか果てない男に私の方が先に参ってしまうとは。
「ほっ、本当に何でも言うこと聞くだか?」
 強い訛りで、男が尋ねてきた。
「きく、なんでも、きくから……」
 ぐったりしながらも、しかし身体は快楽に打ち震える、まさに地獄極楽同時攻撃に思考も参り始めていた。
「なら、おっ、オラの嫁になってくれ」
 嫁?
 何かが、心の奥で何かが、ざわめき始めた。
「オラ、こんなに付き合ってくれた女初めてだ。べっぴんさんなのに、すごいべ」
 私もこんなにされたのは初めて。
 私達、相性良いのかな……私は何を考えているんだ?
「冷たい身体も、気持ちいいべ。オラ、あんたに惚れただ! なぁ、嫁になってくれ、オラのものになってくれ!」
 ものになる……この男のものになる……
 何かぞくりとくる、それでいて心地良い感覚。
 私は、喜んでいるのだろうか?
「ああ……なります、あなたのものに……だから、あぁ! もう一度だけ、逝かせて下さい……今、今もう一度だけ、逝きたいの……」
 もうダメだと思っていたのに。許してくれとまで言ったのに。
 私は今、この男を……夫を……心から求めている。
「ああ、逝くだ! オラもこれが限界だ……」
 激しくなる腰の動き。私も残った力を振り絞り、微力ながら腰を動かし始めた。
 この先、これまでに感じたことのない快楽が待っている。それを直感させるから。
 羨ましいと思っていた。山を下りられる勇気を持った仲間達を。
 私は雪女としてのプライドが邪魔をして、山にしがみついていた。
 そんな私でも、伴侶に巡り会えるなんて……。
「ああ、あんたぁ……いく、いくわぁ、んっ、はあぁ! いく、いく、あんたぁ! あっ、あんたぁ!」
 今までに感じたことのない悦楽。
 力尽き脱力するこの虚脱感と、そして何度も逝かされながらも痙攣する膣。流れ込む白濁液。
 そしてなにより、私を最後まで満足させられる男と、その男のものになたという心地良い束縛感。
 私は痺れる幸福を感じながら、意識を閉ざしていった。

 結局、私は山を下りなかった。
 理性を取り戻した私は、当然のように雪女としてのプライドも持ち直していた。
 そんな私が山を下りる決意をするなど、考えられない。
 けれど……プライドの高い私が、約束を反故にするのはもっと考えられない。
「今帰っただ」
 獲物を手に、帰ってきた。
 私の夫が。
「お帰り、あんた。今日は随分と大量だね」
 夫が仕留めた鹿を、早速自分の食事用の食肉と、街で売る毛皮と頭部に分け始めていく。
 私はそれを、じっと座って見つめていた。
 私と夫が選んだ結論。それは我が家で夫と暮らすこと。
 そもそも夫は山男。人里離れた山奥で暮らすのに問題は始めから無かった。
 夫は自分の食料を狩りで賄い、私は夫から食料を賄った。
 特に娯楽のない山奥。しかし私達の娯楽、いや快楽は、夜に訪れるのだからその問題もない。
 お互いに最高の環境とも言えるかもしれない。
「ねぇあんたぁ……」
 私は甘えるように、夫に、毎日飽きもせず何度も口にした言葉をまた言って聞かせた。
「私幸せだよ。あんたのおかげで」

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