女の勘。特に色恋沙汰に関する勘の鋭さは、男である僕には理解できないほどに超越した物がある。浮気や不倫に関する鋭さなんて、それはそれは凄まじい物がある。
誓って言うが、俺は浮気も不倫もした事なんか一度たりともありはしない。
そう、浮気や不倫は。
「ちょっと、これは何?」
妻が俺の前に、むき出しのDVDソフトを叩きつけるように置いた。
「ネコミミメイド〜家政婦編〜」「萌えっ娘(こ)スプレ」「ニャンニャン喫茶へようこそ3」等といったタイトルが並んでいる。
それは俺が念入りに、仕事用の100枚入りDVD−Rのケースに生のDVD−Rと混ぜて隠しておいた、秘蔵のAV。
どうしてバレたのだろうか?
答えがあるとするならば、これはもはや勘としか言いようがないではないか。
「いや、あの……な、別に、なんだ……」
どう言い訳して良いかも判らぬまま、とりあえず何か言わなければならない強迫観念に押し切られ、文にならない言葉だけをぐだぐだと吐き出す俺。
「……やっぱり、あなたも人間の女が良いわけ?」
「いや、違うんだ! そういう事じゃなくって、なんというか、その……」
勢いは最初だけ。言葉尻はしぼんでいく。
妻は誤解している。
そもそも男は、愛する人との性交とはまた別に、AVや写真集などを見て自慰行為にふけるのも又一つの悦楽行為として楽しむ生き物なのだ。
同性なら理解してくれる。が、女性にはあまり理解されない、悲しい男の性。
だから妻の言う事を違うとハッキリ言い切れるが、しかしそれを具体的に示す事が出来ず言葉が続かない。
「なによもう! 現にこうしてこんなものを隠してたんじゃない! バカにして、悔しい!」
妻が激怒するのは無理もない事かもしれない。ヒステリックに叫ぶ妻は、怒りをストレートに俺へ向けた。
「ぐっ、ちょ、きつ、痛いって……ちょ、ギブ、ギブ、ギ……」
ギリギリと音を立てる俺の身体。妻が俺を強く、それはそれは強く抱擁してきた。
抱擁と言っても腕ではなく、彼女の下半身。
蛇の下半身が俺をグルグルに巻き、そのまま締め上げていく。
バキバキと骨が鳴る。折れたわけではないが、軽く腰をひねって鳴らす間接の音とは比べるまでもなく大きな音。
流石にこれ以上はまずいと感じたのか、妻はしかし怒りの形相のまま、俺をほどいた。
「もう、しりません!」
全身から湯気を立たせているかのような雰囲気を保ったまま、妻は寝室へと向かった。
どうやら俺は、今夜ソファで寝るしかないようだ。
ごく普通の二人は、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。
でもただ一つ違っていたのは、奥さまはラミアだったのです。
……なんて、昔のテレビドラマのナレーションを、自分達に当てはめたところで何かが解決するはずもない。
妻は昨夜の事を引きずってか、今朝も機嫌が悪かった。
俺は何度も謝ったが、聞く耳持たずと全く返事をしなかった。
参ったな。こうなると長引きそうだ。
正直、帰るのが少し怖い。かといって遅くなれば、また余計な誤解を生みそうだし。
もう玄関まで来ている。ここは潔くドアを開け入るしかないだろう。とにかく、誤り倒すしかない。それしか手はない。それからゆっくり話せば良い。きっと判ってくれるだろう。
俺は意を決して、ドアを開けた。
「たっ……ただいま」
俺は息をのんだ。
玄関には、妻が俺を待っていたかのように立っていたから。
それだけなら驚きこそすれ、目を丸くする程にまではいたらない。
「おっ、お帰りなさい……」
恥ずかしげに俯き俺を出迎えた妻は、普段とは違う、だいぶ違う格好をしている。
メイド服。そしてネコミミ。おまけに猫手グローブまでしている。
「どっ、どうしたんだよ……それ」
なんとなく、俺は妻の奇行原因を予測していながらも尋ねた。
「だって……あなた、こういうのが好きなんでしょ?」
そう、妻の格好は俺が持っていたAVに登場する女優が着ていたコスプレと酷似している。
なるほど、妻も妻なりに色々と考えていたようだ。
それにしても、昨日の今日でよくこんな衣装を用意出来た物だ。その行動力と実行力が、つまりは俺への愛情なのだとするなら、こんなに嬉しい事はない。
俺は嬉しさのあまり、靴を脱ぎ散らかし妻の元へと一目散に駆けつけ、思わず抱きしめてしまった。
「ごめんな……でもありがとう。凄く嬉しいよ」
「あなた……」
最初は戸惑った妻も、ようやっと笑顔を見せてくれた。
うん、やはり俺の妻はとても可愛い。この世で一番可愛い、俺の女神だ。
「ん、ダメ、こんな所で……あふっ、ん……」
健気な妻に興奮させられた俺は、激しく唇を求めていた。
妻も言葉では嫌がりながらもまんざらではないのか、細長い蛇の舌を俺の短く太い舌に絡ませてくる。
くちゃくちゃと互いの唇からあふれ出る音がいやらしく玄関に響く。
「ね、お願い。続きは寝室で……」
どこか名残惜しそうに唇を放しながら、妻が言った。ならば善は急げと、俺は妻をお姫様だっこよろしく担ぎ上げ、そのまま寝室へと急ぎ向かった。
そして妻のためにと安月給から奮発して買ったキングサイズのダブルベッドに妻をそっと下ろし、いそいそと背広を脱ぎ始めた。
飯もフロもまだだというのに、今はもう、妻を食べる事しか頭にない。
「そうだ、その格好をしてるって事は、あのAVを見たんだろう?」
恥ずかしげに頷く妻を見て、俺は口元を歪めた。
「なら、あのAVみたいにしてくれよ。解るだろ?」
俺は寝そべっている妻の前に、既に元気いっぱいな息子を見せつけながら言った。
「……ご奉仕させて頂きます、ご主人様」
ああ、なんという幸せ。
妻がネコミミを付けてメイド服を着て、そして奉仕の言葉を口にした後に、その口で俺の息子を頬張る。
これ以上の幸せがあるだろうか?
息子に伝えられる心地よい感触だけでなく、妻の姿が視覚的に俺の心をズキズキと刺激する。
まだ猫手グローブをしたままの妻は少しやり辛そうにしながら、しかし懸命に俺の息子を頭を揺らし奉仕している。
細長い舌が、クルクルと息子に巻き付き締め付ける。そして軽く触れる唇の優しい刺激と相まって、より一層息子を大きく育て上げていく。
「ん、くちゅ、ちゅ……んっ、いかがですか、ご主人様……ん、ん、ちゅ……」
こちらを見上げながら、しかし奉仕を止めることなく妻が俺に尋ねる。
「最高だよ。君のような妻を持てた俺は本当に幸せ者だよ……」
俺の言葉に目を細めた妻は、より激しく頭を動かし始めた。
同時に舌の拘束もきつくなる。
「くっ、出る……出させてくれ……」
もう息子は限界に来ている。だが妻の舌がキツク絡まっているために、出したくても出させて貰えない。
そんな状況でも、唇の刺激は前後にくちゃくちゃと音を立て続けられている。
拷問に近い快楽。俺は再度射精を懇願する。
そして不意にほどかれる舌。待ってましたと勢いよく射出される白濁駅。
妻はそれを、喉を鳴らし飲んでいく。
「んっ、美味しい……ごちそうさま、あな……ごちそうさまでした、ご主人様」
謝礼を言い直した妻が微笑む。
唇の端から僅かに白濁駅をこぼしながら向けられる微笑みに、またしても息子はすくすくと大きくなっていく。
「ご主人様、もう我慢出来ません。はしたないメイドに、どうかお慈悲を……」
猫手グローブを外し、妻は解放された手でスカートをつまみ持ち上げる。
人の腹と蛇の腹。その境目に、妻の恥丘はある。
そこは既に程よく濡れており、あふれ出た愛液が鱗をも光らせている。
メイドの演技を続ける妻に、俺は言葉通り慈悲を、俺の息子を誘う恥丘へと差し入れる。
「んっ! あぁっ……いい、ん、はぁ……」
ぐっと俺は妻を抱きしめ、狂わんばかりに腰を動かす。俺に抱かれ下になっている妻も、俺に合わせ腰を動かしながら大声で喘いでいる。
「いい、ん、あはっ! ん、なんか、いつもより、激しいわ、あなた……ん、あっ!」
気持ちよさに演技を忘れた妻も、いつもより激しく腰を振り声を大きくしている。
俺は妻を抱き起こし、膝で立ちながら更に妻を求める。妻は背を反らせ、俺の腕に身体を預けている。俺は顔を少し下げ、胸に吸い付いた。
「ひゃっ! ん、胸、もっと吸って、い、んっ、噛んで、んっ! はぁ、いい……」
腰を動かしながら揺れる胸に吸い付くのはかなり難しいが、興奮した俺は求めずにはいられなかった。
だが、妻は吸われ噛みつかれる事を望んでおきながら、自ら俺に抱きつき胸を俺の身体に押しつけてきた。
「んっ……くちゅ、んふっ、ん……」
強く俺を抱きしめながら、妻が求めたのは俺の唇。
そして抱擁は腕だけに止まらなかった。
妻の足、蛇の下半身が俺に巻き付いてきた。
こうなると膝で立つ事も出来なくなり、巻き付かれたままベッドに横たわってしまう。
そしてこの姿勢、キツク締め付けられるために俺からは腰があまり動かせない。
しかし妻は器用に腰を動かし続けている。締め付ける側の妻は、動かせるだけの余裕を持たせているから。
メイド役だったはずの妻に、俺の方が完全に攻められる形だ。だがこれが、俺達夫婦のいつも通りの形。
「ね、きもち、いい、ね、あなた、ごしゅじんさま……いい、ん、いい? いい、いいわ、ん、きもちいい……ん、あはっ! ん、ふわぁ……」
妻の動きが速くなる。
俺も僅かながら腰を懸命に動かしている。妻を求める俺の心と体が、動かずにはいられなかった。
「いい、いく、いくの、あなたも、いって、いく、わたし、いく、から、いっ、いく、いくの、いっ、あっ、あ、あぁ!」
ピッタリと密着する妻の腰。俺は妻の奥へと、子種を大量に注入していく。
しばし余韻を楽しむかのように、黙って強く抱きしめ合う二人。
妻は俺をほどこうとしない。
そしてまた、妻の腰が動き出す。
「放さない……あなたは私の物だから。絶対に、もう、放れないで……」
うっすらと涙を浮かべる妻に、俺は答えた。
「大丈夫だよ。絶対に、俺はお前を裏切らないから」
言葉と同時に、気持ちを下半身に込める。それに答え大きくなる息子。
妻は俺の気持ちをもっと感じようと、より激しく腰を動かし始めた。
「私もね、男の人はそういうモンだって言われてきたわ……」
帰宅してから三時間後。俺はかなり遅くなった夕飯にありつきながら、妻と昨夜の事を話し合っていた。
妻はあのメイド服とネコミミセットを、「同郷の友人」から借り受ける際に、男の性について色々レクチャーを受けたらしい。
男の性を説明する中で、妻はどうにかそれに理解を示そうとしていた。
しかし、頭で理解する事と気持ちが許す事は又違う。
「私はね……やっぱり、あなたは人間の女性の方が良いのかって、それが凄く心配で、悔しくて……」
妻は俺が隠れてAVを見ていた事よりも、その対象が人間の女性である事が気に入らなかったらしい。
ラミアはその姿故に、人間の男を愛しながらも拒絶され続ける傾向にある。
それだけに、人間の女性に愛する男性を取られるのを極端に恐れる……らしい。
人間の女性に向けられた嫉妬。それが根底となり昨日の激怒へと繋がったと妻は語った。
「心配しなくても、愛してるのはお前だけだよ」
照れくさい言葉も、こういう時は一番効果的だ。何より、この言葉に偽りはないから。
そもそも、俺は妻がラミアだから惚れたというところがある。つまり、彼女が人間じゃないから惚れたとも言える。そもそも隠し持っていたAVも、コスプレ物ばかり。
これはようするに、人間の女性で興奮していたのではなく、メイド服といった衣装だったり、ネコミミという非人間的な部分だったり、そういった所に「萌え」を感じていたに過ぎない。
……と、素直に告白して良い物か。これはこれで、「じゃあ、相手が人間でなければ誰でも良かったの?」と問いつめられそうだし。
きっかけは確かに妻がラミアだった事にある。しかし何度も言うが、俺は妻に心底惚れている。妻が妻であるからこそ。
そこをどう説明すればよいのか。このまま言葉にして誤解されるのも少し怖いので、今日の所は黙っていよう。
「ところでさ……」
俺はちょっと話の方向を変えてみた。
「あの衣装、もう返しちゃうの?」
理想の妻に、理想の萌え。この最強の組み合わせ、今夜限りなのは実に惜しい。
「……約束を守ってくれるなら、また借りてきてあげます」
その約束とは、俺の所有するAVを全て破棄し、二度と買ってこないというもの。
これはちょっとキツイ。確かに今夜のようなプレイが出来るなら不要……ともいえるが、これはこれ、それはそれ、というのがどうしても男にはある。
しばしの沈黙と、眉間にしわを寄せた俺の顔を見て、妻が溜息混じりに言った。
「……変わりに、その、AVの方は……私が用意してあげますから」
意外な妻の一言に、俺は驚ききょとんと妻を見つめてしまった。
「だから、その、ね……なっ、中身が、人間の女性でなければいいから……」
つまり、妻が人間ではない女性が出演するAVを用意してくれるとの事らしい。
そんな夢のようなAVが存在したのか!
……と、ここで興奮すると、妻の機嫌を損ねそうなので、高ぶる気持ちを抑えながら、しかし驚きは隠せずにいた。
「でも、出来れば私の相手をしてよ? あなたには色々方法があっても、私には……あなただけなんだから……」
こんな可愛い妻を悩ませていた俺は、なんて罪深いんだろうか。
限りある子種資源は、出来る限り妻のために使おうと、俺は強く誓っていた。