宴の後〜仙狐&仙狸〜

 我が屋敷には、来客が多い。
 それも、フラッと訪れてはフラッと帰る、そんな「自由気まま」な連中ばかり。
 それもそうだろう。来客のほとんどが自由気ままに暮らしている妖精や妖怪なのだから。
 しかし中には、人間社会に溶け込み生活している者達もいる。
 そんな連中は完全に自由気ままという生活は送れないが、「思考が」自由気ままなのに変わりはない。
「まったく、今日の合コンは何ですの? ハズレもいいとこのではないですか」
 持参した紹興酒を飲みながら、一人の女性が愚痴をたれる。
「んだ。「あいてぃー」だかなんだか知らねぇが、小難しい話ばかりでサッパリだぁ」
 もう一人の女性が、頷きながらやはり愚痴をたれる。
 俺は二人の会話を、かれこれ二時間は聞いているだろうか。それも同じ話ばかり。「今日の合コンはハズレだ」「相手が悪い」の繰り返し。
 これが今日だけの事、という訳でもなく、二人が訪れれば、大抵同じ話を聞かされる事になる。
 そしてこういう日に限って、他に来客もいなければ、シルキー達「住人」は「気を利かせて」二人に近づこうとしない。
 つまり、愚痴を聞く相手は常に俺一人。毎回俺だけに背負わされる。
「……で、とっくに寮の門限は過ぎているわけだが?」
 俺は返ってくる答えなど判っているが、あえて尋ねた。
 繰り返される聞き飽きた愚痴に終止符を打たせる為に。
「もちろん、泊まっていきますわ。今更帰れませんもの」
「んだ。今帰ったら、まぁた失敗したかぁって寮のみんなに誤解されんべ」
 誤解も何も、明確な「失敗」だろうが。そうは思ったが口にはしない。
 合コン用の「勝負服」はとっくに脱ぎ捨て、部屋着となっている仙衣(せんい)を着込んでいる時点で、泊まる気でいた事などは判っている。
 ついでに言えば、普段は隠している「耳」と「尻尾」を完全にさらけ出している時点である意味、二人とも気分は「帰宅している」ようなものなのだろうか。
 二人は学園寮に住むルームメイト同士。社会的な「立場」は大学生という事になっている。
 とはいえ、年齢まで人間のそれと同一ではない。
 彼女達は少なくとも、千年は生きている。
 千年を生きた狐と山猫なのだ。
「仮に、仮にですわよ。今回の合コンが失敗した原因が私達にあるとすれば、選ぶ相手を間違えたところから失敗していたのですわ」
 狐の黄色い耳をピクピクと振るわせ、三本に分かれた狐の尻尾をせわしなく動かしながら、コップに注がれている紹興酒を一気に飲み干して「仙狐」は愚痴る。
 仙狐は「九尾の狐」とも呼ばれる妖怪故に九つの尻尾を持つイメージが強いが、尻尾の数は神通力の大きさに比例する。
 仙狐になって、やっと人間の「大学生」に匹敵するだけの知恵を身につけたばかりの彼女は、齢は千を越えるが、思考は大学生のそれと変わらず、尻尾も三本しかない。
「だとしたら、失敗したのは用意したアンタが悪いって事でねーか」
 頷くだけだったもう一人の彼女「仙狸」が、山猫の耳が付いた頭を軽く振りながら一本しかない尻尾を立てる。
 彼女も仙狐同様、千を生き抜いた山猫なのだが、やはり「成り立て」の彼女も知恵などは大学生と変わらない。
 ただ尻尾は常に一本である為、仙狐のように尻尾で神通力の大きさを計る事は出来ないが。
「何よ、私のせいだと言いたいわけですの?」
「他に誰がおるだよ」
 あー、こっちに流れたか。俺は「いつもの流れ」から、予測していた状況へ動き出したのを確信した。
 エセお嬢様言葉とエセ田舎訛りの口喧嘩。
 ある意味、どこぞの漫画や小説で頻繁に見られる「お約束」の展開が、目の前で繰り広げられている。
 二人とも、何処でこんな言葉遣いになったのか俺には判らないが、おそらく、仙狐,仙狸と成った時の環境に影響されての事だと思う。が、どんな環境だとこんな言葉になるのか……そこが不思議だ。
 言える事は、二人の性格などを考えると、とても「似合っている」というところか。
「そもそも、「どんな食事が好きですか?」なんて聞かれて、「ネズミ」って即答するあなたがどうかしているんです!」
「なしてかー!アンタみたく、知りもしねーで「フレンチ」だの「イタリアン」だの答えて、深い話されてしどろもどろなっとるのもどーかとおもうべ!」
 外面だけのお嬢様と、純朴そうに見える田舎娘。
 お約束過ぎる二人のキャラクターに、俺は苦笑しつつ、ついぽろっと「本音」を呟いてしまった。
「お前達の好物は「男」だろうに」
 ピクリと、獣の耳が四つ、反応する。
「あら……よくご存じですわね?」
「なら、早速「食われる」だか?」
 あー……もう「こっちの展開」になったか。
 ちょっと普段より早いが、いずれにしても「こっちの展開」に成る事は目に見えていたので、問題はない。
 心の準備もとっくに出来ている。
 それもそうだろう。二人は紹興酒を飲んでいるが、俺は二人に「三蛇酒」を飲むように勧められていたから。
 三蛇酒とは、読んで字の如く、三種類の蛇……ハブ,まむし,コブラと薬草で作る、中国に伝わる精力酒の一つ。日本ではハブやまむしのお酒が同じく精力剤として知られているが、それにコブラまで追加されているのだ。
 しかも、薬草……一応妖精学者として薬草学も学んでいる俺には判るが、あからさまに、マンドラゴラなど魔女が好みそうな薬草が使われている。
 この酒は市販品ではない。この二人と三人の魔女が共同で造った酒だろう。となれば、どのような効能があるのかなど飲まなくても判る。
 そして飲んだ今なら、ハッキリと判る。
「食われる? おいおい、食うのはこっちだろ」
 全身が熱い。特に「男」そのものが熱い。
 気も、普段より強く荒々しくなっているのが自分でも判る。
 俺は「自分から」女性に求める事は、あまりしない。が、今は二人の挑発にあっさり乗るどころか、むしろ待ちきれなかったかのように席を立ち、ズカズカと近寄っていった。
 先ほど俺がこぼした発言も、早々に「この展開」にしたかった俺からの挑発だろう。
 魔女による西洋の薬草学と、東洋の伝統的な精力酒。そして仙道における陰陽の知識。
 これらを総合したあの酒は、俺を別人格かのように奮い立たせるには充分な効力があった。
「こんな酒まで用意して……回りくどいんだよ。身にもならねぇ反省会なんかしてねぇで、直接誘ったらどうだ?」
 確かに、本音ではある。
 毎回毎回、合コンに失敗しては館に訪れ、反省会という名の愚痴を聞かされ、最終的には……朝まで「やらされる」。これが通例。
 ただ普段は、積極的ではない俺をあの手この手で俺を酔わせてから強引に話を進めて……というパターン。
 自分で言うのも情けない話だが、俺はどちらかというと「襲われる方」なのだ。にもかかわらず、彼女達は「自分達から誘う」のを嫌う。
 厳密に言えば、色香を使って誘いはするが、決定的な「言葉」は絶対に口にしない。
 それが彼女達なりの、プライドなのだろう。
 そこで考えたのが今回の……手っ取り早く「こと」に及びながら、あくまで自分達からは誘わない、新たなパターン。
「な、なによ……ちょっとあんた、酔ってんじゃないの?」
 作戦通りとはいえ、あまりに俺が豹変した事に少々驚いている。
「あ? 早速食うだとかなんとか言ったのはそっちだろ?」
 驚いてるのは俺自身も。
 不思議と、心は冷静だ。ただ言葉遣いが乱暴になっているだけで。
 酔った勢いで自分を失っているようではない。
 全て「本音」で、俗に言う「酔った勢い」のような発言はしていない。
「あ、ら、乱暴はよくねぇだ」
「仕向けたのはどっちだ、あ?」
 怯えた仙狸の俺は掴み、ぐっと引き寄せる。
 少し涙目になっている。それがまた可愛らしいとさえ思う。思っているのだが……。
「なんだ、その目は……潤ませて俺を誘ってるのか?」
 潤んだ瞳にすら、色気を感じて言い掛かりにするなんて。
 いや、実際ドキリとする程色っぽいのも事実なのだが……。
「ちょっと、そこまでする事もないでしょう?」
 仙狐が相棒を助けようと俺の腕を掴む。
 俺はその腕を払い、反対に仙狐の胸ぐらも掴み引っ張る。
 と同時に、仙衣は勢いよく切り裂かれ、仙狐の方胸が露わになった。
 ……いや、いくら何でも簡単に破けすぎだろ?
 そもそも、俺は人並み程度の腕力しかない。仙狐は長身だがスラッとしたスタイルを見る限り重そうには見えない。
 仙衣はそのまま仙人が着る衣の事。仙人が着の身着のまま生活を送ってもそう破けないくらいの強度はあるはず。ついでに言えば、この仙衣はアルケニーが織った衣。
 ……そうか、「ここ」も仕込んだのか。
「はっ、自分から脱ぎ始めたか? 淫乱狐が」
 脱いだというか、乱暴によって脱がされるように仕込んでいたのだ。
「そっ、そんな事有るわけ無いでしょ!」
 露わになった胸を腕で隠しながら、抗議の声を上げる。
 本気なのか演技なのか……半々といったところか。
 なるほど……彼女達の「望み」は判った。今日は「そういう」のを望んでるのか。
 なら……もう自分も制御が効かなくなっている。誘われるままに、「ハメ」を外すのもたまには良いかもしれない。
「隠してんじゃねぇよ。お前も、とっとと脱いだらどうだ!」
 胸を隠している仙狐の腕を掴み持ち上げる。と同時に、掴んでいた仙狸の仙衣を強引に引っ張る。
 案の定、仙狐は腕を引っ張られ立ち上がり、仙狸は仙狐同様仙衣を破られ上半身をさらけ出す形になった。
「良い格好だな、田舎娘が」
 俺は倒れ込んだ仙狸を見下ろしながら仙狸が着ていた仙衣の切れ端を投げ捨て、その腕で仙狐を抱き寄せた。
「ちょっ!」
 抵抗の声を出し尽くされる前に、俺は仙狐の唇に蓋をした。
 強引に舌をねじ入れ、仙狐の唇と舌をくちゅくちゅと音を立て味わう。
 多少抵抗する「そぶり」は見せるが、仙狐の舌も俺の舌に絡みついてくる。
 腕を掴んでいた手を放し、俺は抱き寄せたまま残りの衣を強引に脱がせ始めた。
 脱がせると言うより、破り捨てると言った方が的確か。
 衣の下には何も着ていない。
 腰の帯びもはぎ取られた仙狐は、俺の腕に抱かれたまま全裸になっていた。
「随分、気分出てきたじゃねぇか」
 もう、仙狐に抵抗の意志はない。初めからこうなる事を望んでいたのだから当然ではあるが。
「そんなこと、有るわけ無いでしょ……」
 火照った顔。半開きの唇。快楽に潤んだ瞳。むしろ自分から押しつけてくるたわわな胸。
 言葉と裏腹な行動に説得力などはない。
「ほう……じゃ、いいんだな?」
 尻尾の付け根を軽く握り、三本ある尻尾の一本を軽くブラッシングするように先まで滑らせる。
「あ、はぁ」
 軽く唇から漏れる悦楽の声。
 こちらに向けられた瞳は、その続きを期待しているのが見て取れる。
 だが、その期待に易々と応えるつもりはない。
「じゃ、そこで見ていろ」
「えっ!?」
 俺はあっさりと仙狐を抱き寄せていた腕をほどき、彼女を突き放した。
 勢いで倒れる仙狐を尻目に、俺は座り込んだままの仙狸を強引に立たせた。
 仙狐の瞳には戸惑いが宿っている。対して仙狸の瞳には期待が宿っている。
 彼女達は、強引に迫られるのを望んでいる。その為に仕掛けを施していた。
 そこに乗っかった俺は、むろんそれを楽しむ事に決めていたが……ただ彼女達のシナリオ通りに勧めるのは面白くない。
 どうせ強引にするなら、彼女達の全てをさらけ出したくなった。
 こう考えるのも、俺が強気になっているからだろうか?
「お前はどうだ? して欲しいのかどうかハッキリ言え」
 期待していた仙狸の瞳に戸惑いの色が浮かぶ。
 黙っていても、酒の効力で犯されるだろう。二人ともそう期待していたはずだ。
 だが、彼女達は一つ計算違いをしている。
「俺はかまわねぇぞ? 誰でも。判ってないようだから言ってやるが……なにも相手はお前達だけじゃないんだぞ?」
 一瞬、二人は俺が何を言っているのかすぐには理解できなかった。
「そうだな……今夜はヴィーヴルにでも相手して貰おうか。アイツなら強引なプレイだって喜んでくれるだろうよ。くくっ、またアイツに惚れられちまうなぁ」
 そう、俺には「発散」する相手が他にもいる。
 彼女達の計算違い。それは「逃げ道」を完全に塞いでいなかった事だ。
 千年を生きた二人も、まだまだ詰めが甘い。
 まあこの場合……俺に節操がないと攻められる所でもあるわけだが。
「……どうやら、やりたくないようだな。じゃ、俺はヴィーヴルんとこに行くぜ」
 仙狸の腕を放し、俺は部屋を出ようと扉に向かって歩き出した。
 振り向かない。本音を言えば振り向いてすぐにでも二人を抱きしめたい。
 そんな衝動と戦いながら、心ばかりゆっくりと、扉に向かって歩いていく。
 突然、背後からガタッと音がした。
 その音に驚いた俺は、思わず振り向いてしまった。
 俺の目に飛び込んできたのは、俺が飲んでいた「三蛇酒」をラッパ飲みする仙狸の姿。
「……抱いて。抱いてくれろ。もう、我慢できねぇ」
 ……なるほど、考えたな。俺は彼女の突拍子無い行動の意味を理解した。
 あくまで、三蛇酒を飲んだから。
 今の発言は、酒のせいであって自ら口にしたのではない。そういう事にしたいのだ。
 実際に、この酒は効果がある。俺がこんなに成ってしまっているのだから。
 だが、即効性がある訳じゃない。飲んですぐに理性が崩壊するような代物ではない。
「……いいだろう、抱いてやるぜ」
 だがそれを指摘してしまっては野暮。
 プライドと性欲の狭間で、彼女が取った行動を評価してやるべきだろう。
「あ、あはぁ」
 ぐっと両腕で、俺は仙狸を抱きしめた。それだけで、彼女は軽く腕の中で喘ぐ。
「んっ……はぁ……んちゅ……」
 互いに押しつけるような口づけ。激しくも湿った音と、そこから時折漏れる悦楽の声。
「んっ! あはぁ……」
 俺は抱きしめていた腕をほどき、一方を弾力ある尻へ、一方を柔らかい毛の感触ある尻尾へとそれぞれの手を伸ばした。
 なで回し、滑らせ、双方に刺激を与え続けるたび、仙狸は自分から俺に強く抱きつき、胸を押しつけながら腰を僅かだが動かし始めた。
 彼女が腰を動かすと、当然俺の肉棒も擦られる。
「お、大きくなってくだ……熱い、もう熱いだぁ……」
 立ちながら腰を動かすのは難しい。そう大胆な動きには成らない。が、かえってその微妙な動きが刺激になる。
 このままではまずい。さて、次はどう攻めようか。
 そんな事を考えふと下を見下ろすと、そこには取り残されていた仙狐が四つんばいになって俺達の「腰」をじっと見つめていた。
 彼女の後ろには、空になった酒瓶。三蛇酒が入っていた瓶。
 彼女も仙狸に続くように飲んだのだろう。
 そして酒を言い訳にしてまで我慢出来なくなっている。
「はぁ……ああ……」
 まるで犬のように舌を出し荒く息をする狐。
 手はいつの間にか、自分の股間をまさぐっている。
「……欲しいか?」
 俺は見下ろしながら尋ねた。
「……はい、欲しいです。私に……下さい」
 滅多に口にしない、直接的なおねだり。それだけで興奮度がかなり増してしまう。
「良いだろう、二人とも四つんばいになって待て」
 しがみつく仙狸も跪かせる。そして二人の顔前に、俺のそそり立つ肉棒を見せつけた。
「舐めろ」
 短く命令すると、二人は目を輝かせ舌を伸ばしてきた。
 まるで申し合わせたように、二人は取り合うことなく棹を片側ずつ譲り合い舐め始めた。
 猫科特有のザラリとした舌と、犬科特有の長い舌。
 異なった刺激が同時に俺の肉棒を攻める。
「くっ……出すぞ、口を開けろ!」
 開けられた二つの口。そして顔。俺はそこへ容赦なく性欲の白い液を降り注いだ。
 容赦ない、という言葉が本当に当てはまる程に、信じられない量が流れ出している。
 これは酒の効果だろうか? 次々とあふれ出る白い液を、二人は口で受け止め、そして口から零れる分を手で受け止め、一滴たりとも逃さぬ貪欲さを見せつける。
 二人はごくごくと飲み込み、そして手に溢れた分をまた口に運び飲み干し、そして互いの顔にこびりついた物まで残さず舐め取ろうと互いの顔に舌を伸ばしている。
「美味しい……ああ、んっ、美味しい……」
「んだ……くちゅ……美味しいだぁ……」
 淫靡だ。その光景はあまりにも淫靡だ。
 当然のように、俺の肉棒はその光景に反応する。
「よし……そのまま二人とも抱き合うように寝ろ」
 言われた通り、二人は仙狐を下、仙狸を上に抱き合ったまま寝そべる。
 そして言われてもいないのに、二人は足をこちらに向け開いている。
 俺は迷った。さて、どっちから入れようか?
「……もっと腰をくっつけろ。二人の「穴」をくっつけるんだよ」
 ここに来て、俺は選べなかった。
 酒の効果で荒々しくなっているが、根本の俺は変わっていない。
 優柔不断なところが出てしまった。どうせなら二人同時に……などと考えてしまう。
 情けない。攻めに徹しきれない自分が情けない。
「はっ、はやくぅ……」
「来て、来てけろぉ……」
 今落ち込んでいる場合か。
 俺は待ちこがれている二人の間に、固い肉棒をねじり込む。
「んはぁ!」
「く、はあ!」
 二人の肥大した陰核が、俺の陰茎によって何度も擦られる。
 その都度、二人は荒々しく喘ぎ出す。
 理由付けの為に飲んだ三蛇酒が効き始めてきたのだろう。
「いい、あっ、はぁ! そこ……ん、んん!」
「そこ、は、ん……気持ち、あっ、いい、いいだぁ!」
 野獣に戻ったかのように、二人は悶え叫ぶ。
 三蛇酒の為に、まさに三匹の蛇になったかのように絡む俺達。
 もう、理性などありはしない。ただ腰を振り、快楽をむさぼっている。
「いっ、いく! 行きます!」
「お、おらも……いくっ!」
「くっ……行くぞ、行くぞ!」
 三人の獣が、吠えた。
 そして大量の液を二人の間に流し込みながら、二人の上に倒れ込む俺。
 しばし沈黙が部屋を支配する。
 それも、ほんの一時。
「んっ……」
「くちゅ……はぁ……」
 抱き合っていた二人が、互いの唇を求めていた。
 俺はその湿った音を目覚ましに、すぐさま身体を起こした。
 もう、理性など残ってはないな。
 三匹の獣が、疲れ果てるまで互いを求め、舌を伸ばし、指を伸ばし、腰を振り続ける。それだけだった。

「いやぁ、良かっただなぁ」
「ホントねぇ。久しぶりに満喫させていただいたわぁ」
 肌つやも良く、爽やかな朝を迎えている二人のお嬢さん。
「そいつぁ良かったねぇ……」
 対して、干からびたようなり寝転がる俺は、ようやく動く唇で言葉を発した。
 あれから、何度交わったのだろうか……記憶なんてあるわけがない。
「流石に……悪かったかしら?」
「いいんでねぇの? あんたも気持ち良かったべ?」
 悪気なんて初めから無いくせに……あったら、初めからあんなに準備するものか。
「それにしても、凄い効果だったわね。勢いで飲んじゃったけど、あれでは私達も「陽」を放出してしまうところでしたわ」
「んだなぁ。だども、それ以上に沢山「陽」を出してくれて助かったべ。今度から、量に気を付けるべな」
 彼女達の、本当の目的は……快楽だけではない。
 これは、彼女達にとって「食事」のようなものだ。
 陰陽五行において、二人は「女性」であり、「狐」「山猫」であることから「陰」の存在である。
 その事から、二人は仙狐,仙狸として「陽」を求める。
 つまり、男。そして精気。これがどうしても必要なのだ。
 サキュバスなどの淫魔と大差ない……と言うと、少々強引か。
 彼女達が合コンにこだわる訳は、「陽」を得る手段として必要だから……なのだが、未熟な二人は、まだ男を「誘う」術に長けていない。で、結局俺に「陽」を求めてくるのだが……。
「なあ……こんなやり方じゃ、いつまで経っても男を誘えないぞ?」
 俺は妖精学者として、二人に求められたら断る事はない。幸い、失った「陽」を取り戻す術も心得ているし、方法はいくらでもある。故に「餌」にされるのは構わないのだが……このまま二人が「独立」出来なくなるのは心配だ。
「そうは言っても……ねぇ」
「んだなぁ……」
 判っているのだろうか? 今回は……そりゃ俺も楽しませて貰ったが、合コンの成功率に繋がる手ではない。まさかあの酒を、合コンの席に出すわけにはいかないだろう。あれは普通の人間には強すぎる。
「とにかく……いいや、ゴメン。ちょっと流石に疲れた。話は後で……」
 陽を吸い尽くされた俺は、もう限界だった。意識を失うように、睡魔が襲ってくる。
「なんだ……もうちょっと男心ってのも……さ……」
 吐き捨てるように一言残し、俺は眠りについた。
「……なによ、その前に女心をあなたが知りなさいよ。ねぇ?」
「んだんだ」
 二人の声は微かに聞こえたが、その意味を考えるゆとりなど刹那もなかった。

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