正しいかもしれない性教育
〜アルケニー×ピクシー〜

 新しい服を彼女に渡す時、相談から持ちかけられた私は、正直彼女の話を信じられないでいた。
 彼女は、「こんな事」とは無縁だと思っていたから。
「あの……話がよく解らないんだけど……」
 混乱した私は、思わず尋ね返してしまった。
「だから、アルケニーが夜「あいつ」とやってる「遊び」を、私にも教えて欲しいの」
 彼女は「遊び」と言っているが……彼女が言っているのは、間違いなく「あのこと」だろう……。
「遊びって、あれは服を作る為に彼の寸法を測っているだけで……」
 むろん、それは建前。これでごまかせるなんて思ってはいない。お互いが裸になって行う寸法の計測なんて……しかし、相手が彼女、ピクシーならごまかせるかもと少なからず思ったのも間違いない。
「そうじゃなくて、その後。なんか色々遊んでるじゃん」
 よく考えれば、私が寸法計測と称して彼と夜を共にしているその現場を、ピクシーが目撃していた事自体が問題だろう。
 まさか見られているとは思わなかった。
 いや……この館の住人や来客は一癖も二癖もある者達ばかり。
 どこかで見られていても不思議ではないが……そう考えると、私は急速に顔が火照ってくるのを自覚し思わず頬に手を当ててしまう。
「……どうしたの?」
 私が顔を真っ赤にしている理由が判らず、彼女は私の顔をのぞき込み尋ねてきた。
「なっ、なんでもないわ」
 務めて冷静を装うが、もはや手遅れ。
 ただ彼女は私のあわてふためく様にさして興味がないのが救いではあるけれど。
「あ、あの「遊び」は、その……おっ、お互いの気持ちを確かめ合う、大切な儀式なのよ」
 間違いではない。嘘は付いていない。
 素直でない私が、唯一素直に彼を求められる、大切な時間なのは間違いないから。
「んー、なんかそういう難しい事じゃなくてさー」
 眉を寄せ、頬を指でかきながら、ピクシーは単刀直入に切り出した。
「気持ちいい事してるんでしょ? それを教えてよ」
 目眩がした。例えて言うなら、自分の娘に初めて性の衝動を告白された、そんな衝撃。
 人間ではない、妖精のピクシーには大人とか子供とかの区別はない。
 とはいえ、私は子供のようなピクシーにどう性教育すべきか、悩む。
 もはやこんな事で悩まされる事があるなんて、誰が思うだろうか?
「あの……さ。まず、どうしてそんな事を知りたがるのか、そこから教えてくれる?」
 そう、そこが肝心だ。
 ピクシーが男女の情事に興味を持つようになったきっかけが。
 私はピクシーから、昨晩彼に行った「遊び」……というか、「いたずら」というか、彼女が男性器に興味を持ちつつ「自慰」も覚えてしまった経緯を聞いた。
 なんというか……例えて言うなら、自分の娘が自慰行為をしている部屋に入ってしまった時の母親、そんな心境。
 ああ、例えにもなっていない気がする。私はかなり混乱しているようだ。
 実は、私はもう一つ疑問があった。何故私に訊くのか?と。
 これは話の経緯を聞いて解った。
 彼女にしてみれば誰でも良かったのだが、たまたま、彼女が私から自分の服を受け取るのが「昨夜」から最も近い時間であり、彼女が目撃した「彼の遊び相手」の中で一番先に出会ったのが私だった、ということだろう。
 本来なら一番顔を合わせている彼に尋ねるのが早いのだろうが、昨夜の事があって、彼に尋ねるのは流石のピクシーでも躊躇われたのだろう。
「……判ったわ。ちょっと待ってね」
 私は覚悟を決めた。
 好奇心旺盛な彼女の事だ。私が教えるのを渋れば、他の誰かに尋ねるだろう。
 そして納得するまで様々な人に尋ね回る。
 そうなると、私と彼の情事も言いふらされる事も考えられる。
 それは絶対に阻止しなければ!
 とりあえず私は、ソーイングセットから縫い針を二本と待ち針を一本とりだした。色々と説明しようにも、私の身体は彼女と違いすぎるので、直接教えるしかないわけで……。
「まず、あなたの言う「遊び」だけどね……」
 私は「性交」について、真面目に教えるかどうか悩んだ。
 本来は繁殖の為に行う動物的な本能だとか、愛し合う男女の営みなのだとか、そのようなこと、彼女が理解できるとは思えない。
 仮にある程度理解できるとしても、それはそれで問題がある。
 ではなぜ、彼は数多の女性と性交するのか、と問われた場合。
 むろんそれ相応の答えはある……と思いたい……が、やはり彼女を納得させるのはかなり難しいだろう。
 そもそも、「自慰」に自覚がない。となれば、「要点」だけを教えるべきだろう。
 ……本当にそれで良いのか自信ないが、とりあえずそれで納得させるしかない。
「究極に「気持ちいい」事をする、エッチな事なのよ」
 エッチとかスケベとか、これは理解している。
 何故ならば、彼女にしてみれば彼を罵る為の言葉として最適だから。
「あはは、なるほど。あいつそーとーにエッチだもんねぇ」
 納得してくれた。納得された彼には申し訳ない気もするが。
「だから、やったりやられたりして良い相手と、良くない相手がいるの。判る?あなただって、昨夜にやったような事を猫又やレプラコーン達やカッパ達にやってみたい?」
 引き合いに出した彼らには申し訳ないが、これも「正しい……かもしれない性教育」の為と勘弁願いたい。
「うーん……うん、なんとなく判る」
 よしよし。ここまでは順調だ。
「それで、男はあの「棒」をいじられるのが気持ちいいの。そして女は、「ここ」をいじられると気持ち良くなるの」
 私は手に持った縫い針の先……むろん糸を通す側の先で、彼女の股間を軽く突いた。
「え、そうなの? そうだったかなぁ……」
 自覚がないだけに、何が自分を気持ち良くさせていたのかがいまいち理解できていないよう。
「……試しに服を脱いでみて」
 さて、本当に良いのだろうか。私はまだ罪悪感に似た戸惑いを感じているが、全ての事を丸く収める方法としてはこれが一番だと自分に言い聞かせ、私は彼女に「自慰の仕方」を教える事にした。
「脱いだよー」
 彼女は本来の姿をさらけ出す。
 彼女の服を作るのでよく判るのだが、全てが成人女性の1/8サイズ。
 バランスは申し分なく、特に腰回りのプロポーションは素敵だ。
 ただ、胸が小振りなのが欠点なくらいだが、見る人が見れば「萌え」……なのだろうか?
「彼の「棒」に身体をこすりつけた時に気持ち良かったでしょ? それはね、「ここ」がこすれるから気持ち良かったの」
 どうして無意識に身体をこすりつけるなんて事を始めたのか、という説明は省いた。
 ここは報せない方がよいような気がした。
 大切なのは、「彼の棒」をイタズラしなくてもこの「遊び」は出来る、という事を教えるべきかと。
 彼女の為に、そしてこれ以上彼が「夢精」をしない為にも。
 私は女性器の突起部を縫い針で指し示し、気持ちの良い部分を教える。
「試しに、自分の指でいじってご覧なさいな?」
 言われるままに、彼女は自分の突起をそっと触ってみる。
「あっ! なんか、ビクって来た!」
 なんか楽しそうだなぁ……私も初めてってこんな感じだったっけ?
 いえ、たぶん違うわね。
 私は初々しい……と言うべきか迷うが、彼女の反応にちょっとだけ戸惑った。
「続けていじってみて。段々気持ち良くなってくるから」
 素直に彼女は私の言葉に従い、指で時に弾くように、時に撫でるように、色々といじり回している。
「ん……ホントだ、なんか……変な気分……これ、こんな感じだった……」
 無垢な少女に悪い事を教える堕天使。今の私はそんな役回りのような気がする。
 正確には、無垢な妖精に自慰を教える元人間の怪物か……あまり変わりないような気もしてきた。
「気持ちいいでしょ? もっといじってごらんなさい」
 あ、ちょっと「お姉様」キャラ入ってるかな、私……ああ、どこかでこの状況を私は客観的に考えたいのだ。現実逃避と言っていい。そうでないと、罪悪感が又沸々と湧いてきそうだから。
「いい、気持ちいい……」
 これで、「気持ちいい」のメカニズムは覚えてくれたと思う。
 ただ、これで終われないような気はしていた。
 そして、それは的中する。
「でもなんか、物足りない……あの時は、もっと気持ち良かったよぉ……」
 そうなのだ。あの時は彼の棒をイタズラするという行為あっての自慰。
 その行為自体に無意識ではあるが興奮させられていた彼女はただ自分のものをいじるだけではあの時以上の快楽は得られない。
 色々と納得させ、彼の棒の事を忘れさせるには、あの時以上の快楽を教える必要がある。
「だったら、片手で「ここ」もいじってみて」
 私は縫い針で乳首を軽く突く。
 言われた通り、彼女は片手で乳首を、片手で陰核をいじり悦に入っている。
 私は空いたもう片方の乳首を、縫い針でまさぐっている。
「なんか、もっと気持ち良くなってきた……ねえ、私今すごいエッチなの?」
「ええ、凄くエッチよ」
 そして私も。
 私自身も興奮し始めているのが判る。判ってはいるが、今は彼女の事だけに集中しなければ。
「あ、なんか、お漏らし、しちゃってる……指が、指が、でも、とまんないよぉ」
 恥ずかしさからか、彼女は泣きそうな顔をこちらに向けている。
 しかしそれでも、指の動きは止まらない。
 思っていた以上に、彼女は快楽に貪欲だ。
 一言で言えば……淫乱。
 もしかして、私はとんでもない事をしているのだろうか……。
「それはね、気持ち良くなると出てくる「蜜」なの。濡れているせいで、余計いじりやすくて気持ちいいでしょ?」
 でも、もう後には引けない。
「うん、ホントだ……いい、気持ちいい……」
 こうなったら、「いく」ところまでいくしかない。
「指をね、その「蜜」が出てくる「穴」に入れてみて」
 ぐちゅ、ぐちゅ。小さいが淫らな音が聞こえてくる。
「凄い! いい! 気持ちいいよ……あん、いい、んはぁ!」
 夢中になって指を出し入れするピクシー。
 初めてなのに、こんなに感じるなんて……。ピクシーとはそういう種族だっただろうか?
 疑問には思ったが、目の前の現実を見る限りそうなのだろうと納得するしかない。
「でも、まだ足りない……足りないよぉ」
 え?!
 流石に驚いた。足りないとは何が?
 答えは……本当に想像通りなのだろうか?
「……ちょっと指をどけてみて」
 私は自分の想像が正しいかどうかの自信より、本当にやってしまって良いのか、そこに躊躇った。
 でも、ここまで彼女を淫らにしたのは私。責任は取らなくては。
 私は待ち針の頭。玉飾りを一度口に含み、
 そしてその玉飾りをピクシーが一生懸命指を入れていた穴へと近づけた。
「入れるわよ」
 間違いなく処女の彼女には、少し大きい気もする。
 しかし、適度な大きさの物が他にない。
 私は意を決し、ずぶりと玉飾りを差し入れた。
「ああ! これ、いい! 気持ちいい!」
 歓喜の声を上げるピクシー。これが入るなんて……しかも楽々と、気持ちよさそうに。
 玉飾りの直径は4ミリ程。
 ピクシーのサイズを人間に当てはめれば、32ミリ。
 平均的な大きさなんて私には判らないけれど、「大きい方」だと……思う。
「あ、あ、もっと、動かして、ね、ね、もっと、あっ、んっ!」
 私は彼女の言葉とは裏腹に、慎重に動かした。
 彼女は処女。間違って彼女の「膜」を破ったりしたら大変だ。
 私は指先で待ち針をくるくると半回転の往復を繰り返している。
「や、もっと、奥まで! もっと、あっ、ねぇ!」
 もはや教わらなくても、彼女の本能が「自慰」を過激にしていく。
 彼女はおそらく無意識に、腰を激しく動かし始めた。
 そんなに激しくされると、危ない!
 玉飾りは彼女の中を激しく前後にうごめいている。にもかかわらず、私の指には「膜」の感触が伝わってこない。
 もしかして、彼女達には「膜」が初めから無い?
 出血も見られない事から、どうやらその説は正しい様子。
 私はホッとしながら、ならばと彼女のリクエストに応えるよう、腰の動きに合わせながら前後に動かした。
「いい! 気持ち、いい! で、でも、でもぉ」
 でも? ちょっと、もしかして……
「もっと、もっと、太いの、が、いい、もっと、太いのぉ!」
 嘘でしょ?!
 いくら膜が無いとはいえ、初めての自慰でこんな……もう、こうなったらトコトンよ。私は身近にある物で、適当な物はないか見渡した。
 あった! でも、これはちょっと大きすぎるかも……
「早く! ねぇ、早く!」
 息を荒げ求めるピクシー。
 迷ってる暇はなさそう。私は意を決して「それ」の頭に細い糸を巻き、傷つかないように準備を済ませる。
 そして私は待ち針を抜き、糸を巻いた「鉛筆」を差し入れた。
「ひぎぃ!」
 苦しそうなうめき声。やはり大きすぎたか?
 鉛筆の直径は約7ミリ。これを人間サイズに置き換えると……56ミリ。やはりこれは大きすぎる!
「い……か……い、いい、これ……うごかし……て」
 仰天した。古くさい言葉だが、これ以外に当てはまる言葉を私は知らない。
 初めてなのに、こんなものを?
 苦しそうだが、確かにピクシーは気持ちよさそうだ。
 私はゆっくりと、少しずつ鉛筆を入れていく。
「い、いい……こんな……きもち……いい……の……あっ……はあっ!」
 流石にこの太さでは激しく出し入れは出来ないが、しかしそれでも、スムーズに動く。
 ピクシーの息が荒い。気付けば、私の息も荒い。
 もう限界だろう。彼女も私も。
「い……く! いく……いく、よ……」
 興奮して力が入りすぎないように気を付けるのも、かなり厳しい。
 私はまるで……いや、実際にピクシーを犯している。
 その興奮、抑えが効かなくなってくる。
「い、いい、くっ……あっ、いく、はぁ! い……い、いく、いく!」
 小さな身体をビクビクと震わせている。彼女が頂点に達したのが、見て取れる。
 私はすぐに鉛筆を抜いた。彼女も私も、息絶え絶えに荒い呼吸をしばらく繰り返した。
「すごい……こんなに気持ちーことがあるんだね……」
 レクチャーは終了した。
 これで……良かったのだろうか? どうにも腑に落ちない。
 私がしてきた事もそうだが、ピクシーのこの様子、ちょっと異常だ。
「ねぇ……もう一回、やってよ」
 覚え立ての快楽に、歯止めがきくはずがない。当然と言えば当然の要求が、彼女から成された。
「……いいけど、ちょっと待って」
 我慢出来ない。彼女の姿を見て、私も歯止めがきかなくなる。
 私は作業台を片づけ、「角」を綺麗に布巾で拭く。
 そして掌に彼女を乗せ、もう片方の手には先ほどの鉛筆。
「さ、始めるわよ」
 私は作業台の角に自分の淫口をあてがい、そしてピクシーの淫口に鉛筆をあてがった。
「「ああっ!」」
 二人のあえぎが、私の部屋に木霊した。

「いや、そう怒るな」
 ふらふらの私がリビングに向かうと、そこには館の主と彼の薬草学の師匠……ストラスがいた。
「……どうしたの?」
 色々と疲れた様子を出来る限り悟られないように、
 憤慨している彼と、謝ってはいるが真剣みの足りない堕天使の王子に尋ねた。
「いやさ、こいつ薬の調合間違えたと思ったら、間違えたんじゃなくて「イタズラ」してやがってよ」
 薬?
 そういえば、彼は昨夜ストラスの薬を飲んで「精力回復」の為にすぐに寝込んで……ピクシーにイタズラされたのにも気付かないで、「夢精」したと落ち込んでいたんだっけ。
「ふん。堕天使を信用する方が悪い。まずその薬が確かな物か、自分で確かめようとせずなんとするか」
 堕天使の言い分は全て正しい……とは言えないが、薬草学を学ぶ身として確かめなかったのは失態だと思っているのだろう。
 彼は堕天使の開き直りに、反論はしなかった。
「……で、どんな「イタズラ」だったの?」
 なんとなく、私は展開が読めていた。
「性欲誘発剤だ。飲用すると、男性自身は影響ないが、「精液」に効果が現れてな。その精液を飲用すると女性側に効果が現れる」
 あっ、やっぱり。そういう「オチ」なのね?
「てっきり薬を欲したのは、昨晩「やる」つもりでいると思ったのだがな。いや、実に惜しい」
「ったく。ま、結局被害が出なくて良かったけどよぉ」
 いやぁ、被害はたっぷり出てるわよ。
 今作業台の上で疲れ果ててすやすや寝ている、小さな恋人に。
「あの……さ、「もし」それを女性が飲用した時の効果って……すごいの?」
 ピクシーの、あの乱れよう。判ってはいるが聞きたい好奇心を抑えられなかった。
「もちろん!」
 堕天使は自信満々に胸を張り羽を広げ語る。
「一度「興奮」すると体力無くなるまで効果が持続し、痛みですら全て快楽に変換されよがり狂うぞ!」
「とんでもねぇもの飲ますなよ……」
 ストラスの話によると、効果は一時的で「依存性」はないとのこと。ならば……ひとまず安心して良い……のかな?
「なんだ……美しき蜘蛛の姫君。そなたも欲しいのか?」
「なっ、ばっ、バカ言わないでよ!」
 数時間後、こっそり堕天使から薬の事を詳しく聞き出し分けて貰ったのは、堕天使と私だけの秘密になっている。
 いや、これはピクシーの事が心配だから、ちゃんと薬剤師に相談しておきたかっただけで……
 近々、「浴衣の為に寸法を測る」事になっている。
 気付かれぬよう、夕飯に薬を混ぜるにはどうすればよいか。私はその事を一人悩み続けていた。

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